西日本新聞1992年8月7日

 東シナ海、海洋油田
 関保筋は6日、中国が国際入札実施を決めた東シナ海の海洋油田鉱区が、日本が海底資源の探査・利用権の境界として主張する東中井の尖閣書と(中国名=釣魚島)と中國本土の中間線から日本側に一部食い込んでいることを明らかにした。
 外務省幹部は「中間線をどう引いてもはみ出しているようだ」と、この事実をほぽ確認したが、突出しているとみられる部分が鉱区の一部に限られていることなどから、中国側に尖閣諸島の領有問題をにらんだ政治的意図は感じられないと受け止めておリ.中国側の真意を測りかねている。
 同省は天皇訪中の正式決定を控えた微妙な時期だけに.直ちに外外交問題化することは避け、当面は事務レペルで中国側の考え方を打診するにとどめたい意向だが、両国の話し合いがこじれれば日本企業も応札したいとしている同海域の資源開発の行方に微妙な影を落とすことも考えられる。
 今回入札対象となっているのは、上海沖と浙江省沖にある南北二海域の鉱区ブロック(合計面積7万2800平方キロ)で、20の鉱区に分かれている。このうち温州沖の南側ブロックの東南端部分が、尖閣諸島と中国本土沿岸の中間海域から最大数十キロ程、尖閣諸島に食い込む形で設定されている可能性が強い。
 日本政府としては公式に中間線の位置を示したことはなく、周辺の島々を考慮すると引き方は幾通りも考えられるという。
 しかし関係筋は、鉱区は日本側が想定する範囲内の中間線をどうしてもこえてしまうとしている.
 これに対し、中国側は「日本が主張する中間線を仮に設定したとしても、中国側
に利用権がある側に鉱区を設定した」(中国海洋石油総公司)と鉱区設定が日中関係に悪影響を及ばさないよう配慮したことを強調している。
 日本企業が参加するには.膨大な資金がかかる探鉱作業に石油公団などからの投融資は欠かせない.政府は領有権が確定していない海城のため慎重に対応する意向だ。このため石油業界は、今回の問題が公団投融資に与える影響を懸念している。
 中国が東シナ海の鉱区を対外聞放するのは初めてで、国際石油資本(メジャー)など各国の石油開発会社55社が、既に中国側に鉱区図などの提供を申請している.このうち日本の会社は6社だ。

【解説】「技術的問題」との見方も
 中国は5月に係争中の南シナ海の南沙諸島海域で米国企業と共同で石油探査に乗り出すなど、海洋油田の開発に積極的な姿勢を見せている。
 今回、東シナ海での初の鉱区の国際入札発表も、この政策に沿ったものとみられる。
 中国側は石油資源の豊富な東シナ海に本格的に手を付け、国際石油資本や日本の石油会社を引きこ㎞儒形で海洋油田開発を軌道に乗せ、資金調達を確保したい狙いだろう。日中間で微妙な尖閣諸島と中国本土の間の海域であり、中国側も日本が中間線理論を主張、これを侵された形では石油公団の投融資が難しいことは承知しているはずだ。
 日本の外務省の中に、この「はみ出し」を技術的な問題とする見方があるのはこのためだ。
 天皇訪中を前にして外務省も中国側も、この問題が尖閣諸島の貴族問題に火をつける形で発展するのを避けようとする可能性が強い。
 しかし、領土問題をめぐる最も微妙な海域での中間線のはみ出しは、日本としても無視できず、今後どう決着させるかが注目される。

 尖閣諸島 那覇市の西側420キロ、東経123度28分から124度44分、北緯25度44分から25度56分の間に点在する8つの島からなる。魚釣島など5島と三岩礁で、面積は合計約6.3平方キロ。日本政府は1895年1月、沖縄県に帰属するとして各島への標坑設置を閣議決定。その後実行支配していた。1968年、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が「周辺海域に膨大な石油資源が埋もれている可能性がある」との調査報告書を公表して以降、中国、台湾が領有権を主張し.その帰属をめぐって対立している。
 中間線理論 海底資源の探査・利用権をめぐり、日本と中国の領土から等距離の地点に線を引き、これより内側の海底資源は日本側に帰属するという日本政府の主張。これに対し中国側は.大陸棚が途切れるまで権利があるという「自然延長論」を主張、尖閣諸島までを領土とする考えを示している。中国側の線引きは、どの島を基準とするかにより技術的に複数の線引きが可能という。