日本の国際貢献の重要な手立てとして、国連の平和維持活動(PKO)協力のあリ方が国会を中心に議論されています。PKOは、紛争地域での停戦監視や選挙監視、人道的な難民の救済など幅広い活動に従事するのが役割で、これまで中東やアフリカなどで活躍しています。
 昨年8月のイラクのクウェート侵略に端を発した湾岸戦争では、日本は巨額の戦費を負担したにもかかわらず、侵略者排除の実力行使に参加しなかったため。「日本は何事にも金だけで血も汗も流さない」と国際的に非難されたのは承知の事実です。政府は早期に国連のPKOに参加できる「平和和維持活動協力隊」(仮称)の創設を図りたい考えですが、自衛隊の海外派遣と紛争地域での武器の使用をどう克服するかが実現への大きなハードルとなっていることも事実です。
 “武力を保持しない”という日本の「平和憲法」の基本原則と「国際貢献」という時代に要請された重い課題との間で、政府は極めて辛い選択を迫られているといってよいでしょう。
 ソ連共産党の瓦解に伴う国際関係の劇的変化が進展するなかで、PKO協力を含め日本が将来、国際政治にどこまで責任が持てるかという命題は、21世紀へ向けた国家のあり方を規定しかねない重要な問題であることを認識する必要があると思います。

 自衛隊の海外派遣
 PKO協力についての政府の基本的考えは、自衛隊を併任させる「平和維持活動協力隊」を創設し、紛争地域での国連の平和維持活動に参加させるということです。協力隊は武力行使を件わないことを前提にしており。「兵力引き離し、停戦の確保」を主な任務としています。このほか停戦の監視や選挙監視・管理、文民警察、人道的な難民の救済も目的としています。 その際、協力隊に小型武器の携帯を含め、自衛隊への航空機や艦船による輸送の業務委託もありうるとなっています。
 協力隊の派避で一番問越となるのが、紛争地域に出向く協力隊員が武器を携帯しないで任務を遂行できるかどうかです。政府案では一応、協力隊員に軽武装を認めていますが、今度は実際にその武器を使用してよいのか悪いのかという判断も難しいものです。
 せっかく平和維持軍に参加しても、肝心のときに日本の協力隊員だけが日本の法律をもとに「血を流さない」で戦線を離脱できるのかという道義的問題があります。
 仮に日本の法律を無視して現場の判断だけで各国の武力行使に参加してしまった場合、協力隊の国内的立場はどうなるのか。はたして軽装備で各国の平和維持軍に伍して武力行使できるのか。多くの問題で派遣された現場の協力隊員にそれこそ重い判断が課せられてしまいます。
 また、日本の協力隊が国内法を楯に戦線を離脱した場合、国際世論はどのように日本を見るかという不安もあります。
 一方、内閣法制局は、たとえ軽装備であっても、火器で武装して兵力引き離しなどの任務に当たる国連の平和維持軍本体への参加は「憲法で禁じている武力行使に当たる」として難色を示していますし、PKO参加に理解を示している一部野党のなかにも協力隊の平和維持軍本体の参加については必ずしも前向きではありません。
 こうしたなかで、政府部内には「武力行使」ではない「自衛のための武器使用」という考え方も出ています。どういうことかといいますと、国連の平和維持活動もともと「当事国の同意のもとに中立的に停戦違反を監視する活動で原則的に武力行使を目的としない」。「平和維持軍での武器使用は自衛の範囲でしか許されず、自衛隊法に沿った警察的な武器使用と一致する」ということです。
 つまり当事国の一方やゲリラが攻撃を仕掛けてきたときの撤退に伴う応戦は警察的、自衛的な武器使用の範囲で、「武力行使」に当たらないという解釈です。
 とにかく政府・自民党が抱えるジレンマはこうした多くの制約のなかで、それでもなんとか日本が国連の平和維持活動に参加し、国際的に批判が高まっている「カネだけの国際貢献」という汚名を晴らさなければならないということです。

 国際緊急援助隊
 こうした紛争地域での国際貢献とは別に、政府は海外での大規模災害の復旧援助を目的とした「国際緊急援助隊」(仮称)に自衛隊を参加させることし検討しています。
 国内では台風や地震など災害時に自衛隊が出動することが当たり前となっていますが、そうした災害出動の国際版と考えれば理解しやすそうですし、国際的な理解も得やすいのではないかと思います。
 バングラデシュの大水害に際して、被災民の救済や食料援助で先進国の軍隊の航空機が活躍するなかでの自衛隊の海外派遣に多くの障害がある日本は消防ヘリが細々と救助活動をしていた光景を思い起こす人々が多いかと思います。
 軍隊は何も戦争目的だけに出動するのではありません。とくに日本の自衛隊はこれまで
国内の災害復旧で多大な貢献をしてきました。雲仙岳の噴火でも自衛隊が住民の安全と地域
の秩序維持のため派遣されており、日々戦っています。
 自衛隊の持つ復旧のための土木技術や医療協力を海外でも機動的に発揮できるようになれば、海外での自衛隊のイメージアップにつながりましょう、
 最近ある米国の著名なジャーナリストは国際貢献の方法について、「アイデアを出す、資金を出す、汁を流す、血を流すの四つの方法」を示しながら、「平和は血どころか汗の流し方も足りないように思う」と話していました。自衛隊の災害援助はこの汗を流す方法に属すると思いますが、この面でももっともっと貢献できる余地があります。
 かつてヶネディ米大統領が平和部隊を創設、平和部隊への参加者には兵役を免除しました。兵役はいまやなくなりましたが、現在でも万の単位の米国の青年がアフリカなど途上国の国つくりに貢献しています。日本にもに青年海外協力隊がありますが、その派遣人員は平和
部隊の10分の1しかありません。
 PKOへの参加は場合によっては自衛官の生命にもかかわる問題です。しかし湾岸戦争で欧米の兵士がイラクの暴挙に対して戦争に参加、侵略されたクウェートを解放した現実を目の当たりにして考えさせられた人々も多いかヒ思います。
 国際貢献は口でいうのは簡単ですが、いま世界はその実行を日本に求めているのです。
           共同通信・伴武澄