明治維新という日本近代の出来事は、封建社会から近代社会への転換を短期間に成し遂げた事象なのだが、振り返ってとんでもないことをしたと思えることがある。
 短期間に起きた出来事は①武士階級の消滅②廃藩置県という行政区画の変更③地租改革という税制改革④中央官制の変革-の四つだ。これらの重要性については多分誰も気が付いていないことだと思う。
 まず武士階級の消滅。現在の東欧やソ連でいえば共産党組織にあたる。ソ連東欧の自由化の最大の障害は党組織の解体といわれるが、問題は解体そのものにあるのではない。既得権益などはなくなって当然なのだが、一面彼らは党組織の職員であり、労働者でもあるという観点からするると「失業」という問題に突き当たる。
 明治政府が武士階級の『失業』にどういう方法で対処したか詳細には分からない。一時金で解雇されたというのが実情だろう。大名は短期間ながらも当座は県知事に就任、自分の土地も持っていたからその後は地主としてまずまずの生活は保証された。しかし、多くの雇われ士族たちは三百年前の百姓に戻るか、『士族の商法』などとやゆされながらも慣れない商売を始めざるを得なかった。
 その結果、萩の乱や秋月の乱など士族の反乱が1872年ごろから数年間にわたり相次いだ。農民の一揆発生と併せて社会不安をもたらしたことは承知のことだ。