財テクプームの大はやりで、誰も彼もが一時払い養老保険だ、株式投資だと騒いでいます。書店の店頭では、「生涯資金づくりの方法」といったハウツー物の本が積み重ねられ、出版社側も根強い売れ筋本として力を入れています。財テクに走る人びとは口ぐちに、”老後の不安”を訴えていますが、はたして老後の不安だけなのでしようか。たしかに、厚生年金や国民年金といった公的年金だけで「余裕ある老後が送れるのだろうか」という不安がないわけではありません。しかし、心の問題はどこへいったのでしょう。
 絶対ではない 高利回り金融商品
 いま、貯蓄に関して国民の間で一番関心の高いのは”金利”と”利回り”ではないでしょうか。銀行の定期預金(1年)の金利が3.39%、20%の税金を引かれると2%台という戦後最低の金利水準が続くなかではいたしかたのないことなのかもしれません。
 財テクのハウツー物のなかでも。金融商品の”選び方”が必ずといってよいほど指摘されます。1000万円を貯蓄するとして、1%の金利の差は10万円の利息の違いを生みます。得したり損したりすることが事前に分かれば、金融商品選びには真剣にならざるを得ません。昭和50年代後半の高金利時代は郵便局の定額貯金が一番金利の高い商品でしたし、低金利時代でマル優の廃止後は、生命保険会社の一時払い養老保険の利回りが得らしい。
 しかし、得か損かということは新規に貯蓄する場合の話です。大方の人は、既にいくつかの金融機関に預貯金があり、新たに。”有利な商品”に預け換えようと思えば、”途中解約”という手続きをとる必要があります。この場合、予想外の賞用がかかるのが一般的。高い利回り商品に乗り換えて。金利差よりも手数料の方が大きくて、逆に”損する”こともないわけではありません。加えて、たとえ現時点で高利回り商品であっても、その後の金利情勢の変化で満期時には相対的に利回りが低下することも充分考えられます。
 たしかに、金融商品を勉強して。”得をした”人の話をよく耳にします。しかし”損をした”人の話はあまり聞きません。ふだん、金利だ、利回りだと騒ぎ、いざやってみて”あまりうまくいかなかった”としても、なかなか自分から”損をした”とは言えないものなのです。
 ハイリターンは ハイリスク
 金利自由化の流れが定着。4月からは小口貯蓄の金利も自由化されました。企業間の貸し借りの金利だけでなく、個人貯蓄の金利にも自由化の波が押し寄せてきていることは否定できません。ですが、自由化といってもむやみに金利を上げることは不可能です。われわれが手にする金利や利回りというものは、金融機関が国民から預かったおカネを運用した後に、手数料、利益を差し引いた分となるわけです。
 ですから、運用利回りが高いということはすなわち、信用度の低いところや危険度の大きい運用をしているということで、リスクが高くなるのは当然”予想利回り”というのはあくまで。”予想”の範囲を出るものではありません。逆に利回りが低ければ、それだけ安全ということになります。
 「ハイリスク、ハイリターン」と「ローリスク、ローリターン」のこの鉄則は金利自由化
を迎えてますます重みをもってくることは確かです。ましてわれわれのなけなしのおカネは国内だけで運用されるわけではありません。米国の国偵、欧州企業の債券、と海外でも連用されているだけに為替変動のリスクも無視できない時代となってきています。
 そんな状況で、金利が1%高い、低いといって頭をめぐらすことはそれほど重要なことなのでしょうか。株式投資をしようとして、新聞の株式欄を毎日眺め、ある会社の株価が上がった後で買っとけばよかった。”損した”と残念がる人がよくいます。しかし、よく考えるとその人は。”得しそこなった”というだけで、”損をした”わけではないのです。こうした錯覚で不幸な気持ちになるのは愚かと言わざるを得ません。

 平均貯蓄額は1000万円台に突入

 郵政省の郵政研究所が3月に発表した『家計における金融資産選択に関する調査』という報告によりますと、国民一世帯当たりの平均貯蓄額は「2000万円の大台に乗った」ということです。また、平均貯蓄額が1000万円に達したといってもこの程度では、「老後に必要とする生活費の半分にも達していない」という厳しい分析もあわせて報告しています。
 さらに、アンヶ-卜の回答者のうち、50歳までの人は、老後のために必要と考える貯蓄額は平均2385万円で、現在の貯蓄額の1000万円との間には、1400万円近い開きがあるということです。老後の年間必要額は平均298万円で、このうち、半数程度の人が公的年金で生活費の半分を賄えると考えていて、残りは、貯蓄や退職金などを当てにしているようです。
 もちろん平均貯蓄額が1000万円というのは、あくまで平均の数字で、高額所得者は何億円
も貯薔しているはずですから、一般的サラリーマンだけの平均値をとれば、もっと低い金額になるはずです。決して不安がないとはいえません。
 新しく打ち出された年金法の改正案でも、年金の給付開始年齢を現在の60歳から65歳に引き上げることになるなど、老後の不安に追い打ちをかけていることは確かです。しかし、1000万円といえば、世界的にみてもトップレベルです。けっして充分とはいいませんが、少なすぎるとばかりもいってはいられません。”まあまあ”と考えて、老後の生活で大切な”心の問題”に目を向けてみることはできないものでしょうか。厚生白書では「現役時代から、地域に溶け込む生活を送れるよう準備を進めること」を求めています。最近ではシルバーボランティアとして、これまで培った技術を開発途上国のために”生かす”ことを目的に第二の人生に旅立つ人の話も話題となっています。現役時代からおカネばかりに奔走していては、こうした発想は生まれようがありません。人生を大切に生きたいものです。(Libre)
           共同通信社 伴武澄