決定的ダメージを受け、一挙に離山ムードが広がった。以降、石炭会社の経営は悪化の一途をたどることになる。38年に始まった石炭政策では石炭火力発電の促進や生産への″助成金″制度が盛り込まれ、一方で閉山対策も始まった。40年代には総額2500億円もの経営赤字肩代わりが行われたが、これも焼け石に水で。48年からの5次政策では国内炭生産は2000万トンまで縮小されることになった。
 第一次、第二次の石油ショックで一時的に国内炭見直し論が高まり、新しい鉱山の開発が行われた時期もあったが、既に国内炭の生産は石炭需要の20%以下、海外と比べて劣悪な条件下での採掘によるコスト高は遂に克服できなかった。
 エネルギー源の多様化で石炭の使用は増えたものの、増加分はほとんど海外炭による手当てで、鉄鋼業界などはコストダウンのために、国内炭の使用は暫減、今では国内炭比率は使用量の五%未満でしかない。

 大幅円高がもたらす構造調整

 国内炭への決別を決定的にしたのは、昨年九月の五ヵ国蔵相会議(G5)以降進んだ大幅な円高。海外炭との価格差は約二倍から三倍以上も開き、昨年九月から始まった第八次政策の審議のさ中、鉄鋼業界が国内炭引き取り拒否に出るなど需要家側は強い抵抗を示した。これまでの石炭産業は「他産業に類をみない手厚い国の助成と需要業界の格段の協力を前提」(第5次政策)として成り立っていたのはあまり知られていない。鉄鋼の言い分は「円高で鉄鋼は創業以来の赤字が予想される。石炭への協力は十分果たした。石炭が戦後復興に果たした役割を認めつつもこれ以上の負担はたえられない」というもの。
 円高と国内景気の低迷で構造調整をせまられるのは石炭だけではない。鉄鋼はじめ造船、非鉄鉱山、北洋漁業も存亡の危機に立だされている。自動車や電機といった高収益業界も収益悪化に悩まされている。農業さえも例外ではなくなってきている。もはや石炭産業だけに「手厚い国の助成」を続けることは難しい。

  なだらかな閉山は可能か

 第8次政策で政府が最も気遣っているのが、「いかにして集中閉山を防ぐか」という課題。既に閉山を決めた三菱石炭鉱業高島礦業所(年産67万トン、長崎県)に続き、三井石炭鉱業砂川鉱業所(同94万トン、北海道)も本年度内の閉山が確実視されている。
 通産省のシナリオでは、来年度以降も年間1~2鉱山のペースで閉山が続き、大幅な減産を余儀なくされる鉱山も出てくる。退職金など閉山対策費は44年以来、閉山交付金として国が肩代わりする仕組み。第8次政策では総額650億円の交付金が必要だが、今後通産省がそれだけの財源をねん出できる保証は今のところ何もない。加えて、今後の供給と生産のギャップから積み増しが予想される膨大な在庫(貯炭)対策費も必要。当面は新エネルギー総合開発機構(NEDO)を通じた低利融資を行う方針だが、いずれ新たな財源に基づく制度の設立が必要とされそう。
 いずれにしても「なだらか閉山」に回すための財源はあまりに心細い。需要業界から見放された石炭産業は、石炭の「保護者」を任じてきた通産省の手厚い助成さえも期待できない情況だ。電力以外の支えを失いつつある国内石炭に「なだらか閉山」の展望はあるのだろうか。