牛1000頭を北朝鮮に贈った現代グループの鄭周永氏
執筆者:李 鋼哲【立教大学博士課程】
金大中氏が大統領に選出された後、朝鮮半島の南北間関係は改善の兆しを見せており、相互交流や往来も増えてきた。これは、金大中氏が「平和、和解、合作」という、北方に対する「陽光政策」を取っているのと深く関係ある。
赤十字会が積極的に斡旋
南北朝鮮の赤十字会の交流はいままで絶たれたことがなかった。昨年、韓国は赤十字会を通じて北朝鮮に2回の食糧援助を提供した。今年3月、南北赤十字会は北京にて第3次食糧援助について合意し、韓国は4月から2ヶ月かけて、北朝鮮に合計5万トン相当のトウモロコシを支援した。5月2日、韓国の赤十字会代表李柄雄氏が、第1便の援助物資とともに仁川を発って北朝鮮の満浦に到着した。そして、双方の赤十字会代表が北朝鮮内での会合を実現した。今後の南北赤十字会の接触は板門店を通るホットライン電話や北京飯店のみに限られず、その内容も物資支援に限らないであろうと推測されている。
鄭周永氏が「不帰橋」を3回渡る
双方の経済交流や貿易の分野も拡大している。1988年に韓国政府が民間企業の北朝鮮との経済貿易活動を許可して以来、10年間に393人の企業家達が北朝鮮を訪れた。今年に入って、韓国政府は北朝鮮への投資額基準(最大500万米ドル)制限を撤廃したことを受けて、韓国企業家は北朝鮮への直接投資に前向きの興味を示した。特に注目されるのは、現代グループの名誉会長鄭周永の意味深い訪朝である。
鄭周永氏は現代グループの創業者であり、1989年に既に2回も訪朝した。その際に、北朝鮮側と会談し、金剛山の開発、船舶修理工場と自動車組立工場の設立など、三つの項目に投資することで合意した。ところが、その後の南北関係の後退で実現できなかった。今回、彼は高齢で身体が不順であるにもかかわらず、まだ決着が着いていない前回の投資案件について話し合うために、自ずから再度の訪朝を決意した。彼の訪朝は既に韓国政府によって許可されている。同時に、鄭氏の訪朝を前後に、韓国政府は対北朝鮮支援策を強化することで支援制限を緩和した。つまり、戦略物資以外の全ての物資を支援でき、戦略投資項目以外の全ての分野で投資できる、という決定を発表した。
鄭氏は訪朝を前に、北朝鮮に1万トンの食糧と1000頭の耕牛を支援することを決定し、故郷の北朝鮮に対する無償援助のお土産としている。南北赤十字会の協力を通じて、1万トンの食糧は既に北朝鮮の元山港に着いた。他に1000頭の耕牛は、板門店の「不帰橋」を通って50台のトラックに乗せて北朝鮮に運ばれるという話しもある。
平和の使者が文化交流を促進
南北間の文化交流も盛んになりつつある。現在、韓国は北朝鮮のテレビ番組の視聴への制限を緩和したので、韓国の国民は直接に北朝鮮のテレビ番組を見ることができるようになった。北朝鮮も韓国の文化界や新聞界の訪朝を受け入れるようになり、韓国の新聞や刊行物には北朝鮮の名勝古跡や綺麗な大自然を紹介する写真や報道が増えている。
他の消息によると、北朝鮮の錦湖で軽水炉建設(KEDO)現場で働いている韓国の労働者は、今年の夏より付近の療養所で療養や魚釣りができるようになったという。最近、韓国の小天使芸術団は北朝鮮を訪問し、首都の平壌で3回の公演をした。また北朝鮮の名勝である金剛山を遊覧したという。韓国文化財団と北朝鮮アジア太平洋和平委員会との協議に基づいて、北朝鮮の万寿台少年宮少年芸術団は今年の秋期に韓国のソウルを訪問し、公演する予定であるという。
観光の面で、韓国と北朝鮮との間では、北朝鮮の羅津・先鋒地区に「観光特区」を共同で設立し、韓国の観光客が羅津・先鋒を経由して中国に入り、中国や第3国の観光客も羅津・先鋒を経由して韓国に行けるような「連続旅行」(韓国の速草-北朝鮮の羅津-中国の延吉を結ぶ観光ルート)を実現するための交渉が行われている。
別れは簡単だが、逢うのは難しい
現在、南北朝鮮の離散家族は1,000万人近くいるという。そのなかには二世と三世が含まれている。韓国の推計によると、現在韓国には北朝鮮生まれの人口が約41.7万人いるが、これは韓国総人口の約1%を占める。この人たちは既に年をとっており、北の家族や親戚と再会することを強く望んでいる。南北赤十字会は離散家族の問題で100回以上の協議を重ね、数回にわたって協定を結んだ。しかし、1985年に双方合計151人が板門店を通って相互訪問を実現して以来、政府或いは赤十字会の協定に基づいた相互訪問は停止されていた。
離散家族の再会を促すために、韓国は赤十字会を中心に、新聞社や研究機関が参加した「民間団体協議会」を発足した。この協議会は離散家族の再会事業を推進するために、情報を交換し、諮詢を提供するほかに、離散家族の調査団を随時に派遣できるような準備を進めている。今年の3月に、北朝鮮の安全部にも離散家族の査詢処が設けられた。
北朝鮮の「労働新聞」の報道によると、この査詢処が設立して間もなく、多くの人からの親戚捜しを依頼する手紙を受けているという。しかし、査詢処の仕事は韓国にいる親戚の依頼を直接に受けいれるのが不可能で、北朝鮮の人は第三国を通じて韓国にいる親戚と交信や面会が可能である。とにかく、北朝鮮当局は南北の親戚が第3国で逢うことを黙認している。今後の1年以内に、1985年のような離散家族の再会の盛況が実現できるのかどうかは予測できないが、親戚再会の機会は増えていくだろう。
祈願は実り難い
朝鮮民族は単一民族であり、第二次世界大戦後の冷戦により、半世紀近く分裂と対峙の状態が続いた。これは一つの民族の不幸であり悲劇である。金大中氏は大統領当選後、対北朝鮮政策を発表し、「武力行使を許さない、吸収統一を求めない、南北間の相互交流と協力の拡大に努力する」という3原則を打ち出した。最近、朝鮮労働党総書記金正日も、民族大団結の5項目方針を打ち出した。つまり、民族自主の原則、双方の関係改善、民族大団結の実現、外部の干渉を反対、南北交流の拡大である。南北朝鮮の主張の共通点と食い違いは一目瞭然である。朝鮮半島で、今世紀中に分断状態を終わらせることは難しいが、民間による南北間の交流の拡大は、半島の安定と平和、さらに統一に向けての希望を与えているであろう。 (李氏は延辺朝鮮族自治州の出身で、現在、立教大学経営学博士課程)
メディアケーション(東京都、代表平岩優)とNEAR総合研究機構(島根県、川口耕一代表)のホームページ
【環日本海経済通信】より掲載しました。