執筆者:近藤 萬右衛門【(有)花器屋萬右衛門】

これは、お花のよろずプロデュース業の奮闘記です。

●横浜のMM21地区に花の屋台現る

98年11月10日。たった二人のわが社の設立記念日に桜木町の歩道上で花を売り始めた。第2期のスタート日の朝7時半に開店。その前の週の金曜日早朝、東京の大田市場へ花の価格調べに行き、揃える花を決める。そして前日の月曜日に仕入れである。

大田市場には仲卸会社がずっと軒を連ね、本棚のような棚にスパゲティーの麺を並べるようにして花が並んでいる。同じ花があちらの店では50円、でもこちらは70円。この違いは何だろうと一生懸命考える。生産地が違うから、長さが違うから。よく見ると、いい顔をした花とそうでもない花もある。

みな競うようにしてあちこちの花を見ながら買っている。安くていいモノはすぐになくなってしまう。生鮮品のよさだなー。大量生産だといつでもどこでも手に入るから、その善し悪しも判断することすらしない。ガーベラが欲しい。沢山欲しい。あちこち走り回って、確保する。

次は色あわせ。欲しいものが無かったので、ガーベラに合う花と色を探す。野草系のかわいい小花もほしい。でも最近の流行なのでなかなか数がない。ウ~ン困った。こんなことの繰り返しで何度も何度も往復する。

全部揃って10時ころ市場を後にする。3時間もうろうろしていた。しかもずっと歩きっぱなしだった。朝早いし、これはかなりきつい。でも仕入の主体は私ではなくもうひとりのスタッフの女の子であるから、彼女はもっときついはずだ。

●湯揚げで元気を取り戻す花

外での販売であることを念頭に”湯上げ”することにした。花は人間と同じで急な熱いお湯に敏感に反応し、植物の体内官が大きく開くのである。湯上げの後、すぐ水に浸けるとキューッと水を勢いよく体内深く吸ってくれるので、元気になる。

実は湯上げをやっているお花屋さんは少ない。きっと面倒くさいんでしょうね、バイトの子たち。それで、すぐ枯れると買ったお客さんのせいにするのである。

「お水あげました?」とか「置き場所が悪かった」とか、こんなお花屋さんへは行かない方がいいのだ。こんな時は「すぐ変わりのお花をあげなさい」と私はいつも言っている。そんなことを思っている間にもうひとりのスタッフの女の子はさっさと仕事をしているのである。

●そして、開店

什器、花桶、ペーパー、セロテープ、釣り銭、パラソル、プライスカードあれこれを車に積み込んで朝7時に現地に到着。入居しているシルクセンタービルは6時45分頃しか空かないので、暫く外で待っていた。寒かった。現地まではほんの5分。セッティングに30分で、7時30分には開店しているような雰囲気が出来た。

場所はランドマークタワーの手前。JRと東横線桜木町駅から連なる幅約15メートルの歩道上。通行量は凄い。とにかく凄い。こんなに沢山の企業戦士達が毎日同じ道を通っているのである。そこに突如現れた花だらけの屋台に通行人は皆振り向く。注目度100%である。微笑んで見ていく人が多い。立ち止まる人もいる。「カワイー」という声がする。でも売れない。「なんで朝も早から花売ってんの?」という感じなんだろうか。

「会社に花を咲かせましょ」。これが今回のコンセプトである。殺風景な会社に花が少しだけでもあれば、いい感じになるのである。小学校のころ、クラスに必ず花を持ってくる女の子がいたもんだが、会社でもそうすればいいのだ。こういう時代だからこそ、花一輪の持つチカラが心にいいのである。そんな女の子もまたいいし、花の似合う女は無条件にいいのである。そんなお客さん第一号はまだこない。【お花の萬奮闘記 98年11月17日創刊号から】

【お花の萬奮闘記】ご意見・ご声援メールもお待ちしております。(有)花器屋萬右衛門/近藤萬右衛門

【萬晩報から】 どういうわけか吉永小百合の「寒い朝」の歌詞を思い出しました。筆者は最近、男やもめの一人暮らし。庭に咲く茶花を一輪、床の間に挿す風雅を楽しんでいます。花の似合う男だって悪くありません。念のために(伴 武澄)

【上嶋さんから】

新規開店の花屋さん、開店おめでとうございます。「職場に花を」のご提案、私も早速実行したいと思っています。実は当方も12月1日新会社を発足させます。私は社長を命ぜられ、一日中その準備に追われています。新会社は千葉市稲毛にありまして、週日単身赴任になりますが、花があれば和むと思います。職場と住居に花を飾る習慣をつけましょう。(11/19)

【牧口さんから】

花屋台の奮闘記をとても楽しく読ませていただきました。実は、私は昨年よりフラワーアレンジメントの学校に通っています。いつかは友人の結婚式にブケーを作ってあげられたら...と思っています。週に一回花に触れますが、その時だけは日ごろのストレスがうそのように消えてゆき、自然の力が偉大だということをあらためて実感します。たった一輪の小さな花でも、大輪のバラでもその力は同じこと。(個人的には、「職場に犬を」なんていうのもよいと思うのですが...。)毎日の生活の中で花を見つめる心のゆとりを持った人々が増え、花屋台が日本の町角に立ち並ぶ日も近いかもしれませんね。(11/20)