執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

首相の諮問機関である経済審議会が時期10カ年計画に盛り込むべき課題として「移民労働力の受け入れ」を掲げた。実現への道のりは遠くハードルはまだ高いが、有識者の意見として明示できたことは勇断だ。

●福祉の負担担う外国人に感謝したい

10年ほど前にドイツの労組幹部にインタビューをしたことがある。くだんの幹部氏は「外国人労働力なしに西ドイツの1960年代の成長神話はなかった」ことを打ち明けた。当時の西ドイツはユーゴスラビアやイタリアだけでなくトルコといった周辺諸国から多くの労働力を導入した。

労働力として西ドイツに渡った人たちははやがて家族を呼び寄せた。結婚し、子どもを生み、定住するようになった。いまでは外国人が労働人口の一割を超えるようになっている。単なる労働力として受け入れたはずだった外国人が増えることによってドイツとしてのアイデンティティーの問題も浮上した。

だが幹部氏はこうもいった。「日本では高齢化が急速に進み、若年層による将来の負担増が問題になっているが、ドイツでは住み着いた外国人もまた年金など高齢者に対する負担を担ってくれている。感謝しなければならない」。子沢山のトルコ系の人々がいなかったらドイツでも高齢化のスピードが日本並みになっていたはずだとも語っていた。

当時、日本経済はバブルの頂点で、このままだと労働力不足で経済成長力を失うとの危機感が産業界にあった。担当していた労働省でも産業界でも外国人労働力導入をめぐる論議が盛んだったし、論壇でも西尾幹二早大教授と評論家の石川好氏がその賛否をめぐって興味深い論争を展開していた。

●移民受け入れは先進国としての責務

13日に発表した経済審議会の政策課題では少子化に伴う労働力不足の解消という観点から、永住を含む移住労働力の受け入れを積極的に検討すべきだとしている。このなかで富士ゼロックスの小林陽太郎会長は「日本経済の富裕さが多くの人を引き付ける結果として、移民をある程度受け入れるのは責務」と先進国としての自覚を促している。萬晩報としては、これに「異文化なものとの出会いが社会の進歩や活力を生む」という視点を付け加えたい。

労働省は1997年末の外国人労働力について不法就労を含めて66万人と推定している。大阪商工会議所の副会頭である小池俊二サンリット産業社長は「在日朝鮮・韓国人、正規の就労ビザ取得者に不法就労者を合わせると100万人を超す」と推定する。いずれにしても人口規模でいえばドイツの10分の1でしかない。

日本は外国から先進の知識や技術を受け入れて発展してきたが、移民の大量受け入れは白鳳時代まで遡らなければならない。日本ほど民族的に純粋培養が進んだ国家は世界でも稀だ。多くの外国人受け入れを反対する多くの意見は民族の融合より民族間で起こるであろうトラブルにばかり目を奪われるが、小林陽太郎氏がいうように、ある程度の受け入れはもはや豊かな国際国家としての義務である。

●求められる異質なものを受け入れる度量

ここ数年、日本は景気低迷の長期化でかつてない雇用問題に直面しているが、一方で中小企業では慢性的な人不足が続いている。かつて3Kと嫌われた作業現場や長年の修行を必要とする熟練労働にはもはや人が集まらないという事情もないわけではない。

外国人が日本で多く働くようになれば、彼らはまず日本語を取得しなければならない。日本の文化もある程度理解しなければならない。日本に合わせることが彼らの義務となる。もちろんあつれきは生まれるが、結果的に日本への理解が進むことでもあり、日本語を語る人口が増えることでもある。

異文化との出会いは日本人にとって悪いことではない。外国語を流暢にしゃべれるようになることだけが国際化ではない。まして日本人が外国へ出かけることではない。いま日本に求められているのは国内に異質なものを受け入れる度量を身につけることなのだ。