壮大なる中国の混沌–国営企業の民営化・再論
執筆者:南田 寛太【萬晩報通信員】
小論02号「壮大なる中国の混沌–国営企業の民営化」は筆者の予想以上に反応を頂戴した。(03号に抄説)それは、簡言すれば、中国の国営企業改革とは言われるが、実態は日本には伝わらず、その一部を垣間見たことによると思う。
実は、中国の「国営企業改革」は、今に始まった事ではなく、この数年、各国営企業の自己責任体制の確立、杜撰で破綻している金融状態の整理、社会習慣化していた三角手形(融通手形の一種)の禁止、経営陣及び企業員による株の持ち合いによる「株式会社化」「協同組合所有化」、、、等様々な改革が試行錯誤されてきた事は「知る人ぞ知る」であったが、その全てが殆ど効果無く、中国の経済改革には、ゆっくりと措置する時間がもはや無く、「国営企業の身売り」という民営化が、強行されつつあると言う事であると思う。
私は経済学徒でもなく、経済研究組織にも、中国研究組織にも加わらない、一企業人に過ぎないので、自分の目で見、耳で聞く範囲の知識しか分からず、したがって全体の流れ、全国的統計等の収集、紹介は、他の方の情報を待つ者であるが、今年になって、幾つか関係する記事に出会ったので再論したい。
一つは「中国ノンバンクは破産処理ー香港経済に波紋広がる」(産経99.01.18)という記事である。これは、広東省の国営・広東国際信託投資公司(GITIC)の破産の波紋についての記事である。XX国際信託投資公司という組織は中国特有の企業体であるが、広東省、遼寧省、大連市、というような各省、特別市毎に、恐らく数十は有ると思われる、国営の投資会社であり、同時に海外からの資本誘致の窓口的役割を果たし、相当の資金力と投資育成力を兼ね備えた組織である。
このXX国際信託投資公司が、主に香港資本と、合弁で中国国内の合弁企業を陸続と創業してきたし、中国国内の国営企業、新興企業に対し、銀行に代わって投資、融資も、行ってきた。一時は、中国経済の発展の隠れた主役として期待されてきのであるが、ここに至って、これら中国版国営ノンバンクの膨大な不良債権が明るみにでてきた。
広東国際信託投資公司が、邦貨約2000億円の債務超過で破産し、他の広東省のノンバンク奥海企業集団も邦貨約3000億円の巨額債務が明るみに出ている。その他、広州国際信託投資公司、大連国際信託投資公司、など破綻の噂が絶えない。
これら破綻した国有ノンバンクにたいする資金供与は、主に香港金融資本があたっており(実は香港の銀行団だけでなく日本の都銀も、かなり貸し越しており、恐らく不良債権化するだろうと思われる。ー某都銀から現地の某国際信託投資公司に検査に訪中してるバンカーと懇親した経験による)香港金融監督局によると「香港に拠点を置く金融機関が昨年十月時点で、中国国内の全ノンバンクに対して保有するエクスポージャー(リスクを伴う債権)は、総額約3200億香港ドル(約4兆8000億円)に達する」という。
これらの不良債権は、「死に体」の国営企業が最終債務者であるならば、まず回収不能と見て善く、いずれ大きな経済問題化するのは、まず間違いない。つまり近い将来、中国の国営ノンバンク群は相当に破綻し、それに連動し香港の金融機関も深刻な状況に陥る事を余儀なくされていると思われる。
次に、以上の反映であるが、「中国四大国有商業銀行ー中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行の4つ」の不良債権も全貸付けの25~40%、金融機関全体の不良債権は国内総生産の20%に達するとされ、(香港金融筋)、深刻な「貸し渋り」と、アメリカのS&L処理をモデルとした破綻処理が発動されているが、その実効性は疑問視されている。 この中国国内での「貸し渋り」は、国営企業の膨大な破綻、倒産が、目前に迫っていると予想される。
中国政府は従来から「人民元切り下げ」を否定してきた。それは1994年の33%切り下げが、それ以後、「中国は輸出を大きく伸ばした」効果の反面、東南アジアの通貨危機の間接要因になったとされ、今度人民元を切り下げるならば、世界恐慌の引き金にならないとも限らないからである。
しかし、国有企業の改革に伴い、既に「農村を加えた余剰労働力は1億3000万人に至って」いるという現在、8%の持続的成長を維持することは、雇用確保の絶対条件である。つまり国内経済の成長維持と雇用確保、不良債権の解決には、「人民元を切り下げ」輸出産業を伸ばし、海外からの投資を促進させる政策が必須であるが、他方、それが引き金に世界恐慌が荒れ狂っては元も子もない。
というジレンマ状況が現状であった。それが年が明けると、「政府の否定にも関わらず今年は人民元の切り下げをするだろう」と「切り下げ説」が現実のプログラムとして論じられ始めた。
この真偽については、私は判断の材料を持たぬし、また「為替切り上げ、切り下げだけは嘘をついても許される」と言われるほど高度の政治的判断なので何とも言えぬが、中国国内の切り下げ圧力は客観的には最高に達してる事は間違い無い。
こうして見ると、日本の金融再生の課題と並んで、順調のように見える中国も世界恐慌への大きな時限爆弾を抱えている事がわかり、慄然とさせられる。そして、例え日本のデフレ不況が回復し、金融再編が、成功裏に進行したとしても、隣で時限爆弾が爆発すると、日本だけ避けられない事が恐ろしい限りである。(なんだ・かんだ)
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