今語る台湾の歴史(4)先に手を引いた中華民国
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
日中の手打ち式は行われたはずだったが、その交渉相手先の中華民国・中国国民党が中国共産党に戦争で破れてしまったから事は複雑になった。日本が「負けました」と降伏した相手は現在の台湾に続く政権だったのだ。1972年キッシンジャーの個人的功名心から中華民国は切り捨てられ、現在の中国が主役に踊り出た。
策謀家の周恩来は「台湾のようなちっぽけな島など独立など大したことはできない」と吐き捨て、すぐにでも侵略統一できるものと党幹部は考えていたが、意外にちっぽけな台湾がしぶとく生き残った。経済が大発展し中国全土を追い抜いた。
先に述べたように中華民国は国連が認めない国である。北朝鮮とか、南太平洋の数万人の国は国連の加盟国なのだが、2200万人がまじめに暮らしている台湾は国ではない、仲間ではないと黒人のアナン事務総長は決めているのだ。アフリカなどの虐げられた人々の心が分かる代表と思われていても、台湾の人々の気持ちには応えられないらしい。
●本当のトラブルメーカーは誰か
2つの中国の争いから先に手を引いたのが、中華民国台湾側である。90年年代初頭、李登輝は「動員征伐時期臨時条項」を修正し、大陸中国を認め、戦争による解決を一方的に放棄した。これが初の台湾人最高指導者によってなしえた画期的な決定だ。
「共産党を反乱分子と規定し、その征伐のための非常時だから独裁政治であっていい」という国の根本的な考えのひとつを改正した。1年前のちょうどこの3月に陳水扁が野党からの出馬で大統領に当選した。この民主選挙に道を開いたのが李登輝による決定だった。一方の中国は政府を批判する野党を作っただけで刑務所行きだ。
それまでは互いに憎しみあい、隙あれば戦争を仕掛ける準備が行われて来た。中国共産党や人民解放軍の機関紙はこの李前総統を「アジアのトラブルメーカー・世界最悪の指導者」「台湾同胞を惑わす最低の政治家」「歴史のゴミ箱に捨て去られるべき史上最低の人物」と扱き下ろしている。「NEWS23」などの番組は金大中の「太陽政策」をやたら誉めているけれども、10年先行した李登輝を無視しているのはなぜだろうか。李登輝インタビューが放映されたら大変参考になるのに。中央電視台赤坂放送所からではやはり無理なのか。
中国共産党は何か引け目があるのか、日本や米国に李氏が訪問して演説されると困るらしく、外国訪問ができないように必死で裏工作をしている。APEC大阪会議や京大百周年、広島アジア大会などの裏事情を聞くとそういうところが見えてくる。
●自分たちこそ支配者という傲慢
李登輝の画期的決定から10年、6・4天安門虐殺の教訓も生かされず、共産党幹部の考えは過去の戦争時代と同じで思考停止している。いまだに武力による威嚇での統一を第一に考えている。自分たちこそが支配者だという傲慢さがある。陳水扁が持ちかけても話し合い解決に乗って来ない。「中国共産党の主張をすべて認めなければ話し合いの席には出ない」というものだ。その主張を端的に表す言葉が「ひとつの中国」なのだ。
つまり、「中国がひとつならそれは当然共産党の支配する我々中国のことであり、台湾は共産党より格下の地方政府であり、もともと反乱分子であるから正当な主張をする権利などない」ということを認めたら会ってやるというものだ。
こうあからさまに言うと世界のマスコミに叩かれるので抽象的な「ひとつの中国」という言葉に留めてこだわるのだ。「2つの中国」や「一中一台」を認めると共産党の正統性が失われ、50年間自分たちがやってきたことの辻褄が合わなくなることからこうした主張が続けられている。
本当に「中国人民のことを思い」「台湾を偉大なる祖国に抱擁する」と思っているのなら、どういう条件でも話し合いの席に付いたらよかろう。それができないのは、本心から出た言葉ではないからだ。
船津宏へのメールは funatsu@kimo.com.tw