実は年々目減りしている公共事業の怪
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
90年代、日本政府は100兆円に及ぶ景気刺激策を実施した。萬晩報でも何度か「土建国家」などとののしった経緯がある。ところがどうも様子が違う。国と地方を併せた日本の公共事業費は予算ベースでは増えているが、支出ベースでは95年度をピークに急角度で減少しているのだ。
日本の年間GDPはほぼ500兆円。小渕内閣になってから98年度に2回にわたる景気対策で計15兆円強、99年度は3.5兆円、2000年度は4.7兆円の公共事業費の追加を余儀なくされた。15兆円はGDPベースで3%、3.5兆円ですら0.7%。本来、公共投資は波及効果があるとされ、投下した事業費を上回る経済効果が期待される。仮に波及効果がゼロであったとしてもGDP押し上げ効果が3%から0.7%あってしかるべきなのに、名目値での成長率はこのところマイナスが続いている。
おかしいなと思いつつ同僚記者と議論した。数カ月前のことである。
「これだけ公共事業費をつぎ込んでいてGDPが上向かないのは不思議だと思わないか」
「そりゃおかしいと思いますよ。でもそれだけ日本経済が落ち込んでいるということじゃないですか」
「俺は公共事業が本当に実施されているか疑問視しているのだが、どう思う」
「そんな、予算につけたものは完全消化するのが役人でしょ。そりゃないはずですよ」
「だけど、決算書で具体的に検証したことあるの?」
「見たことはないですが、端数は別として予算と決算の内容が乖離することなんて考えられない」
しばらく経って、くだんの同僚記者が十ページほどの決算書のコピーとともに現れた。
「すごいですよ。やっぱり減っていました」
「そうだろう。ちょっと見せて見ろ」
地方の公共事業費の予算(地方財政計画))と決算が大きく乖離しているのは1月に総務省が発表した資料で分かっていた。99年度は当初予算と追加策で19兆円もの予算をつけておきながら実際には12兆円しか使っていない。追加策どころか当初予算さえ十分に使っていなかったのだ。
政府の予算は絶対といっていいほど前年度比マイナスにはならない。だが、その資料を読むかぎり地方財政のつまずきから予算に計上しても実施できない状況はここ5年間ずっと続いていたのだ。
地方ほどではないが、国の公共事業費でも同じことが起きていた。98年度には3兆円ほどの予算を余し、99年度も2.7兆円を使い残した。
役人の説明では「秋に景気対策が成立しても、年度内に事業を立ち上げるには時間が足らない。残った事業はすべて翌年度に繰り越しているから、景気の下支えにはなっているはずだ」というものだった。
しかし、例年、秋口に「このままでは政府の成長率見通しが達成できない」という理由から景気対策が打たれてきたのではなかったか。その景気対策がその年度の成長率に寄与できないのなら、はじめから「この対策は今年度の成長率に寄与しない」と名言すべきだった。机上の計算ではあるが、年度内に執行できていれば、0.5-0.6%のGDPが上乗せとなる金額の公共事業費が実は使われなかったというのが実状なのである。そう説明しなかったのだから、これは国民に対する「詐欺」だ。
公共事業費が年々増加しているような錯覚をしたのはあくまで予算ベースで事業費が増えてきたからで、支出した決算ベースで見る数値は逆に減少しているのが現実なのだ。
公共事業の実施状況の推移
GDPベースの
公共投資額
国の歳出予算
国の歳出額
国の未消化額
95年度
43兆3612億円
15兆8170億円
12兆7949億円
3兆0221億円
96年度
41兆9753億円
14兆1905億円
12兆3402億円
1兆8503億円
97年度
39兆5929億円
12兆3007億円
11兆0670億円
1兆2337億円
98年度
39兆5280億円
16兆0707億円
13兆0342億円
3兆0365億円
99年度
38兆4417億円
15兆6786億円
12兆9722億円
2兆7064億円
(注)GDPベースは国、地方、高速道路など財政投融資を含む金額
では100兆円にも及ぶ国債はどこに使われたのだろうか。一つは減税である。もうひとつは不良債権の穴埋めである。それから地方交付税の割り増し分であろうと思う。決算ベースで見る国債発行金額を眺めれば一目瞭然だ。(続く)