ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)-1
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
国際的な企業間ネットワークを担うべく、複数の国籍の異なる大企業の取締
役を兼任する「ビッグ・リンカー」と呼ばれる人達がいる。彼らの発言は、企業活動のみならず、政治、防衛、社会福祉、環境政策においても絶大な影響力
を持っている。
2001年9月11日の同時多発テロの「前」後から彼らの動きが慌ただしくなってきた。
■カーライルの宴
10月26日、米AP通信は、ビンラディンの親族関係者の話として、ビンラディン家は軍需産業と関係の深い米投資会社カーライル・グループに行って
いた202万ドル(約2億4600万円)相当の投資を引き揚げることを決めたと報じた。
サウジアラビアの中東有数の建設会社を経営するビンラディン家は、米国を含む世界の大企業に幅広く投資しているが、同時テロ以前からサウジアラビア
を追放されていたウサマ氏とは既に絶縁していると表明している。
カーライルは、カールーチ元国防長官を会長とし、上級顧問にはジェームス・べーカー氏、諮問委員会にはブッシュ元大統領(以下ブッシュパパ)やイギ
リスのメージャー元首相も名前を連ねるなど米英政権と太いパイプを持っている。
昨年もブッシュパパとメージャー氏は、サウジアラビアの実業家と会談を行うためにリヤドを訪問している。また9月には、ワシントン・モナーク・ホテ
ルで豪華なパーティーを主催し、この時にはコリン・パウエル現国務長官とパウエルが取締役を務めていたAOLタイムワーナーのステファン・ケース会長
が講演者として雇われて壇上に立った。
このカーライル・グループの宴は、世界中を巻き込みながら新たなステージを演出していく。
■ジェームス・ベーカーとEDS
ジェームス・べーカー氏は、1985年から1988年まで、レーガン政権の財務長官としてプラザ合意をまとめ上げ、1989年から1992年までは、
ブッシュパパ政権の国務長官として湾岸戦争を指揮した。
また記憶に新しいところでは、ブッシュVSゴアの最終決戦の場となったフロリダ州での再集計作業でも、ブッシュ陣営を代表して現地に乗り込み、勝利
の立役者となる。
フロリダ州は、ブッシュ大統領の実弟のジェブ・ブッシュが知事を務めているが、現在全米を揺るがす炭疽菌問題で最初に被害にあった場所でもある。こ
のあたりに何かが隠されているのかもしれない。
ジェームス・べーカー氏は、カーライル・グループ以外に1996年からエレクトロニック・データ・システムズ(EDS)の社外取締役も務めている。
このEDSは、総売上高192億ドル(2000年度)の世界最大の情報処理サービス会社である。大統領選にも出馬して旋風を巻き起こしたことのある
ロス・ペロー氏が1962年に設立した。1994年にはペロー氏がゼネラル・モーターズ(GM)にEDS株を売り渡し、GMの子会社となる。この時に
GMの世界的ビジネス・ネットワークをフルに活用することにより世界戦略構築の基礎が作られる。1996年にGMから分離独立するが、現在でもGMは、EDSの大株主として強い影響力を維持している。
また1995年には世界有数の経営経営コンサルティング会社、A・T・カーニーを買収し、コンサルティング事業とアウトソーシング事業を強化してい
る。
今年の入ってEDSは再び買収戦略を開始する。5月23日にストラクチュラル・ダイナミクス・リサーチ(SDRC)とユニグラフィックス・ソリュー
ションズ(UGS)の買収を発表し、SDRCの買収手続きを9月4日に、またUGSの買収手続きを9月28日に完了する。
そして10月1日には、両社を統合し、プロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)事業への本格的な参入を発表する。抱える製品は三次元C
AD/CAM「アイディアズ」「ユニグラフィックス」「ソリッドエッジ」、製品データ管理ソフトの「メタフェーズ」「アイマン」など多岐にわたり、包
括的なサービスを提供する唯一のプロバイダとなる。とりわけ日本の製造分野への影響は計り知れないものとなるだろう。
このEDSの1996年以来の大手販売先にロールス・ロイスがある。2000年度の契約額は21億ドルとなっているが、このロールス・ロイスはすで
に自動車部門をフォルクス・ワーゲンに売却しており、戦闘機を含めた航空機エンジン部門を中核にした企業となっており、世界の旅客機エンジン市場の三
分の一を占めている。
また買収したSDRCも航空宇宙産業トップ10企業のうちのボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン等大手7社をサポートしてい
る。また今年3月には、ロールス・ロイスと並ぶイギリスの軍需大手BAeシステムズとも提携しており、軍事面における強力なリーダーシップを構築しつ
つある。
なお、下のEDSの2000年度取締役会メンバーを開いていただきたい。
http://www.eds.com/investor_relations/ir_proxy_proposalsa.shtml
●Richard B. Cheney, 59
●Ray L. Hunt, 56<
現在のチェイニー副大統領とそのチェイニーがCEOを務めていた石油関連サービス会社ハリバートンの社外取締役、ハントオイルのレイ・ハントCEO
がジェームス・ベーカー氏と仲良く並んでいるのである。なおチェイニー副大統領もブッシュパパ政権では、国防長官としてパナマにおける「大義作戦」、
そして中東における「砂漠の嵐作戦」という、近年の歴史上最大の2つの軍事作戦の指揮をとった。ブッシュパパの果たせなかった夢を実現すべく、時には
忍者のように姿を隠しながら陣頭指揮にあたっているようだ。
そして、「ロッキード・マーチン」「ロールス・ロイス」「BAeシステムズ」が、揃って登場するニュースが飛び込んできた。
■JSF(ジョイント・ストライク・ファイター)
米国防総省は、10月26日、空軍、海軍、海兵隊、及び英空軍向けの次世代主力戦闘機「JSF」の発注先企業に米大手航空機メーカー、ロッキード・
マーチンを選定したと発表した。JSFは合計3000機製造される予定で、総契約金額は2000億ドル(約24兆6000億円)となり、米軍の契約額
としては過去最大となる。
また27日付の米紙ワシントン・ポストは、米国外からさらに3000機を受注する可能性があると報じている。同紙は2040年まで生産予定のJSF
を「今後半世紀にわたり、世界を支配する最後の有人戦闘機」と指摘した上で、各国軍隊の発注を予想している。当然のことながら、日本に対する導入圧力がかかってくるだろう。
また、JSFの生産拠点となるロッキード・マーチンのフォートワース工場は、ブッシュ大統領の地元、テキサス州にあり、新たな雇用は約4500人と
の見方さえある。
今後50年間でみると、補修備品なども含め1兆ドル(約120兆円)を超えるビックビジネスになるとの予測もある。この計画が発表された1996年
当時には、計画そのものに対する見直し論も議論されたが、今回の同時多発テロはそうした反対勢力をも吹き飛ばしたようだ。
このJSFの開発には、BAeシステムズとロールスロイスが加わっている。
「BAeはロッキード・チームの一員であることを誇りに思う」と間髪入れず声明を出した。BAeはJSFプロジェクトで開発・生産の10%を担い、米
GEエンジンが主導するエンジン開発ではロールスロイスが40%を分担する。
今回の報復作戦において常に行動を共にしたイギリスの狙いがここにあったようだ。
また、テキサス州フォートワース所在のロッキード・マーチン・タクティカル・エアクラフト・システムズは、JSFを開発するノースロップ・グラマン
やBAeシステムズ等から成るチームを指揮していたが、1999年5月にSDRCの「メタフェーズ」を共通PDMツールとして選択していたのである。(つづく)
園田さんにメールは E-mail : yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp