ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)-2
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
■カール・オットー・ぺール
1998年6月1日に発足した欧州中央銀行(ECB、本部ドイツ・フランクフルト)は、ドイツ・ブンデスバンクをモデルにしており確固たる独立性を
有している。このECBの規約作りに貢献した人物こそが、1980年から1991年までドイツ連邦銀行総裁を務めたカール・オットー・ぺール氏である。
現在カール・オットー・ぺール氏は、ドイツの投資銀行サル・オッペンハイムとその親会社であるスイスのサル・オッペンハイム銀行の取締役である。ま
た、アメリカでバリュー株投資で著名なマリオ・ガベリ氏が率いるガベリ・アセット・マネジメントの取締役でもある。かっては、J・P・モルガンの国際
諮問委員会のメンバーを務め、1992年から1997年まで世界的な食品・日用品メーカーであるユニリーバと石油メジャーロイヤル・ダッチ・シェルの
取締役を務めた。またフレッド・バーグステン所長率いる国際経済研究所所長(IIE)の役員も務めている。
そしてこのカール・オットー・ぺール氏もカーライル・グループの諮問委員会のメンバーとなっている。さらに2000年7月25日にロールス・ロイス
・ドイツは、戦略的な諮問会議である「ヨーロッパ諮問委員会(本部パリ)」の新設を発表し、そのメンバーにカール・オットー・ぺール氏を選任している
のである。
ロールス・ロイスは、買収拒否権のある「黄金株」をイギリス政府が保有する国策的重要企業と位置付けられており、今なお外国人出資規制(上限49、
5%)も残るだけあって、「ロールス・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」には、元フランス空軍のヴァンサン・ラナータ将軍やシラク大統領の側近中の側近ベ
ルナール・ポンス元設備・運輸・住宅・観光大臣等の大物と並んでビッグ・リンカー達が集っている。
■ウォーレンバーグ・ファミリー
「ロールス・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」のスウェーデン代表として名を連ねるピーター・ウォーレンバーグ氏は、スウェーデンのロックフェラー家
として注目を集めるウォーレンバーグ(ヴァーレンベリ)一族にあたる。
スウェーデン3位の大手銀行であるSEB(スカンジナビスカ・エンスクリダ・バンク)と持ち株投資会社インベスターを中核に、国内の通信機器大手エ
リクソン、家電・厨房機器大手エレクトロラックス、航空機大手サーブ、産業機材大手アトラス・コプコ、ヘルスケア大手ガンブロ、素材エンジニアリング
大手サンドビックや国外ではスイス本社のエンジニアリング最大手ABB(アセア・ブラウン・ボベリ)、イギリスとスウェーデンに本部を置く世界3位の
製薬会社アストラゼネカなどを傘下に持つ巨大企業グループである。
また一族の資産を管理するナット・アンド・アリス・ウォーレンバーグ財団は、ノーベル賞で知られるノーベル財団の最大のスポンサーのひとつでもある。
ジャコブ、マーカス、ピーターの一族三人に加え、ビッグ・リンカーがここに集う。
●ヨーラン・リンダール
※ABB前社長兼CEO、現取締役。デュポン(米国、化学最大手)、※エリクソン、※ソニー(日本)取締役。※ソロモン・スミス・バーニー・インター
ナショナル(米国)国際諮問委員会メンバー
●ピーター・サザーランド元WTO事務局長
BPアモコ(英国、石油大手)会長。ゴールドマン・サックス・インターナショナル会長。※エリクソン、※インベスター、スコットランド王立銀行取締役。
日米欧委員会欧州議長。※ワールド・エコノミック・フォーラム財団(ダボス会議主催)役員。ヨーロピアン協会ディレクター。
●ドナルド・ラムズフェルド現国防長官(米国)
ギリアド・サイエンス(米国)元取締役会長、※ABB、アミリン製薬(米国)元取締役。※ソロモン・スミス・バーニー・インターナショナル(米国)元国際諮問委員会会長。※インベスター元アドバイザー。ジェラルド・R・フォー
ド財団、アイゼンハワー交流奨学基金、スタンフォード大学フーバー研究所、国立公園財団、ランド研究所理事。
昨年、インベスターの所有するサーブの自動車部門の株式50%をGMに売却し、サーブの自動車部門はGM資本100%となる。これに対抗し、フォー
ドは同じスウェーデンのボルボの自動車部門を買収するが、トラック・バス・産業機器・航空機部門を有する現在のボルボに対して、インベスターは、新た
に触手を伸ばし始めている。
なおGMとウォーレンバーグ・グループは、以前から密接な関係を維持してきた。グループ中核のインベスター、ABB、アストラゼネカ、サンドビック
の4社の会長を兼任するパーシー・バーネル氏が、1996年からGMの社外取締役に就任しており、M&Aを含めた政策を協調して行っているのである。
パーシー・バーネル氏は世界的に評価の高い経営者であるが、ダボス会議を主催するワールド・エコノミック・フォーラム財団の副会長を務めている。
なおワールド・エコノミック・フォーラム財団には、ウォーレンバーグ・グループからバーネル氏とサザーランド氏の2名が、ワールド・エコノミック・
フォーラムの評議会には、ジャコブ・ウォーレンバーグ氏が参加している。
現在のスウェーデン・サーブには、ウォーレンバーグ・グループと並んで、BAeシステムズが33%の株式を保有している。またその取締役会は、ウォ
ーレンバーグ・グループからマーカス・ウォーレンバーグを含めた4名とBAeシステムズからの3名が中心となって構成されている。
さて、ヨーラン・リンダール氏であるが、今年9月にソニーに続いてアングロ・アメリカンの副会長に就任している。
そして、11月7日、ワールド・エコノミック・フォーラムは、2002年のダボス会議をニューヨークで開催すると発表した。欧州のビッグ・リンカー
達がニューヨークを占領するのである。
■パウエル卿(The Lord Powell of Bayswater)
現在イギリスのブレア政権は、貴族院(上院)に一部残っている「世襲貴族」を議員にする制度の全面廃止に向けた改革に取り組んでいる。実現すれば、14世紀に誕生し世界有数の歴史を誇る上院は、完全に姿を変えることになる。
この上院にも「ロールス・ロイス・ヨーロッパ諮問委員会」のイギリス本国のメンバーがいらっしゃるのである。サッチャー元首相とメージャー元首相の
外交政策と防衛政策におけるアドバイザーを務めたベイズウォーターのパウエル卿(男爵)である。イギリス貴族を代表するビッグ・リンカーでもある。そ
の肩書きの一部を紹介しよう。
●ジャーデン・マセソン・ホールディング元会長(英国/香港、商社、1832年設立)
●ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーLVMH会長(英国)
●ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシーLVMH取締役(フランス本社)
●サギッタ・アセット・マネイジメント会長(英国)
●フィリップス・ファイン・アート・オークション会長(英国)
●キャタピラー取締役(米国、重機、建設機器、戦車製造)
●テキストロン取締役(米国、航空機、産業機器、軍事用ヘリコプター製造)
●マンダリン・ホテルグループ取締役
●HCL・テクノロジーズ国際諮問委員会(インド、情報ソリューション他)
●バリック・ゴールド国際諮問委員会(カナダ、金鉱会社)
●中国-イギリス・ビジネスカウンシル議長
●シンガポール-イギリス・ビジネスカウンシル会長
●オックスフォード大学ビジネススクール理事長
●GEMS国際諮問委員会メンバー
●アスペン研究所理事※※
ルイ・ヴィトンとくれば、さぞかし日本女性も興味津々となるに違いない。
しかし、バリック・ゴールドもあなどれない。今年6月にアメリカのホームステーク・マイニングを買収し、アングロ・アメリカン傘下のアングロゴールド
に次ぐ世界第二位の金鉱会社となる。
そして、このバリック・ゴールドの国際諮問委員会の初代上級顧問がブッシュパパであり(現在は退任)、カール・オットー・ぺール氏もそのメンバーと
なっている。
ゴールドに群がるようにカーライル・グループとロールス・ロイスと貴族達がなにやら不思議なサークルを構成しているようだ。
そして、忘れてはならない人物がいる。第一線から退いたはずの大物がここに復活してきたのである。そして彼もカーライル・グループのパートナーであ
る。
彼の名はあのジョージ・ソロスである。(つづく)
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