執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】

■バーノン・ジョーダン

バーノン・ジョーダンは、現在のアメリカの政財界で最も影響力のある黒人であろう。1982年から務めてきた名門法律事務所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドを離れ、昨年1月にラザード・フレールのマネージング・ディレクターに就く。エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドの弁護士としてはとどまるものの、この実質的なラザード転身のニュースは大きな話題となった。

ジョーダンは、クリントン前大統領の親友としても知られ、モニカ・ルインスキー・スキャンダルの時には、就職の面倒を頼まれた人物として再三メディアに登場した。

これまでに何度もコラムで紹介してきたが、日本とも深いつながりがある。新生銀行の社外取締役と富士銀行の国際諮問委員会のメンバーを務めているのである。

エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルドといえば、創設者のひとりにロバート・ストラウスがいる。カーター政権(民主党)政権時の通商(USTR)代表、駐ロ大使を務めた経験がある。テキサス出身でFBIのスペシャル・エージェントも務めたストラウスは、ブッシュ支持にまわりテキサス出身で「ブッシュ-テキサス・インナーサークル」の中枢を担う。このあたりの関係がジョーダンの転身に大きく影響したのかもしれない。なおクリントン前大統領自身も退任後のラザード・フレール入りも噂されたこともあった。

バーノン・ジョーダンは、アメリカを代表するビッグ・リンカーであり、取締役件数も群を抜いている。そのひとつがアメリカ・オンライン(AOL)・ラテンアメリカの取締役だとわかるとなにやら訳がわからなくなる。つまりAT&TのCATV事業はラザードとAT&Tのブロードバンドをめぐる争いであり、勝者がAOL・タイムワーナーであろうとコムキャストであろうとマイクロソフトであろうとあまり変わりはないようである。メディア分野におけるラザード包囲網が広範に張りめぐらされており、AT&Tといえどもその存在を無視できるものではない。

そして12月19日、ようやくこの買収劇の結論が下された。AT&Tは、CATV部門をスピンオフ(分離・独立)し、コムキャストと合併させると発表する。新会社は「AT&Tコムキャスト」となり年商190億ドル、約2200万世帯の加入者を抱える巨大CATV企業が誕生することになる。

新会社AT&TコムキャストのCEOには、コムキャストのブライアン・ロバーツ社長が、会長にはAT&Tのアームストロング会長が就く。そしてマイクロソフトは、同社が出資する50億ドル相当のAT&T優先証券を新会社の株式1億1500万株に転換することで合意を勝ち取る。

この買収劇の陰の主役を紹介しよう。AT&Tのファイナンシャル・アドバイザーを務めたのはクレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)とゴールドマン・サックスであり、コムキャストのアドバイザーはJPモルガン・チェース、メリル・リンチ、クアドラングル・グループで構成された。そしてラザードは単独でマイクロソフトのアドバイザーを務めていたのである。

ラザードとマイクロソフトを繋げる鍵はアスペン研究所にある。

■ジョーダン夫妻と取締役兼任制度

バーノン・ジョーダンのこれまでの経歴をリストアップしたものが下である。

▼現在の取締役就任企業

●ラザード・フレール(米) マネージング・ディレクター

●エイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルド(米)弁護士

●アメリカン・エキスプレス(米 カード、金融大手)

●アメリカ・オンライン(AOL)・ラテンアメリカ

●クリア・チャンネル・コミュニケーションズ(米 ラジオ放送最大)

●ダウ・ジョーンズ(米 ダウ平均で知られる)

●J・C・ペニー(米 デパート最大手)

●レブロン(米 化粧品最大手)

●サラ・リー(米 食品、衣料品最大手)

●ゼロックス(米 複写機等OA機器大手)

●新生銀行(日)

▼現在の国際諮問委員会メンバー企業

●ダイムラー・クライスラー(独、米、日)

●富士銀行(日)

●バリック・ゴールド(加)

●ファースト・マーク・インターナショナル※(欧州メディア)

▼過去の取締役就任企業

●バンカーズ・トラスト(米 現ドイツ銀行)

●ユニオン・カーバイド(米 化学大手)

●ライダー・システム(米 総合ロジスティック・プロバイダー)

●R・J・レイノルズ(米 タバコ大手)

●セラニーズ(米 化学大手 現アベンティス)

●AMFM(米 現クリア・チャンネル・コミュニケーションズ)

▼その他

●米欧日三極委員会●ビルダバーグ会議●外交問題評議会(CFR)

●フォード財団●LBJ財団

●詳細は下記参照

TheHarvardBusinessSchoolAfrican-AmericanAlumniAssociation(HBSAAA) BIOGRAPHY

http://www.hbsaaa.org/conf2001/Biographies/confBioVernonJordan.htm

日本では社外取締役を名誉職や監査役と同等に見る傾向があるようだが、実際には過去社外取締役がCEO(最高経営責任者)を更迭した事例も数多くある。また年10回程度の取締役会に出席し、この時には議事録も残されるため適切な発言が求められる。報酬は、かなりの個人差があるようだが、一企業につき年間5万ドル程度が平均と見られている。

昨年実施されたUSAトゥデイの調査によれば元労働長官でアスペン研究所の名誉会長で知られるアン・マクローリンが務めるマイクロソフトやケロッグ、AMRなど9社の報酬は、66万7000ドルであった。ジョーダンの報酬は、ワシントンポストの1998年の記事によると当時で110万ドルと推定している。

しかもこのジョーダンの奥様アン・ジョーダンがこれまた凄い方なのである。シティー・バンクで知られる全米一位のシティー・グループ、医療・健康関連用品のジョンソン・エンド・ジョンソン、情報処理サービス大手オートマチック・データ・プロセシングの社外取締役なのである。さぞかし立派な豪邸にお住まいかと思われるが、果たして夫婦の会話を楽しむ余裕があるのだろうかと余計な心配をしてしまうのである。(つづく)

園田さんにメールは E-mail:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp

記事をメールで紹介する