コメ業界でも常識化した「混米」という慣行
執筆者:安藤 嘉雄【安積ライスファーマーユニオン代表】
田植え後平年並みに育っていたイネも、7月20日頃に平年並みに梅雨が明けると、猛暑というより酷暑といっていいほどの天気で一気に開花・受粉が進みました。しかし、旧盆近くになると今度は一気に9月下旬並みの気温まで落ち込んでしまい、太陽も顔を出さなくなってしまいました。まだ、コシヒカリの一部に開花していないところがあったので大変心配していましたが、10日ほどでまた残暑が戻ってきました。毎年、毎月のことではありますが、天候に一喜一憂、収穫するまで安心できない日々が続きます。
さて、昨年夏に国内初の狂牛病が発生してから、雪印食品の牛肉偽装問題の発覚を皮切りに、次々と食品表示の偽装問題が大きな社会問題となっています。この「安積野」でも何回も取り上げてきましたが、最近では食肉業界最大手の日本ハムがやり玉にあげられ大騒ぎをしています。
そんな中、お米の偽装問題もついに取り上げられるようになってきました。人気の高い魚沼産のお米が、生産量の10倍も販売されているということなどは以前からも指摘されていて、お米の偽装は消費者も含めて半ば公然の秘密のようなものだからなのか、あまり大騒ぎはされていないようですが、産直だより「安積野」としては取り上げないわけにはいきません。
今回は大変恥ずかしいことに私たちの地元、郡山市の業者が摘発されました。お米の検査は2001年からの5年をかけて国から民間へ移行されることになっています。初年度の2001年産米における検査の信頼性について、疑問を持った仕入れ業者が、経費のかかるDNA検査をして摘発したというのが今回の事件です。「カネクチ山口」は、産地農協と同じお米の集荷業者です。社長が民間検査官の資格を取り、自社で混米したお米を生産者から集荷したようにして検査印を押したようです。
お米の品質(乳白米、着色米、屑米などの比率)の検査は容易ですが、品種の検査は大変難しく、生産者からの申し出により、種子の購入状況を調査したり、田んぼでの生育状況を見ないと分かりません。米粒の微妙な形状の違いで疑問がもたれることはありますが、混米されるとDNA検査でもしなければ判明できません。
農家段階では、混米する設備がない為、手作業で混米するほどのメリットがないので行われませんが、一部の集荷業者や卸業者などでの混米は、業界では常識に近いものがあります。厳密に取り締まれば、大手の精米業者など(ハム肉業界と同じく)、偽装していない会社などないといっても過言ではないのです。
私は、行政改革の面からも検査責任の上からも民間検査には大賛成です。記事の中で、「民間に検査が移行しても公的検査と同じ水準でなければ行けない・・・」とありますが、民間検査に移行すれば、公的監査より厳密になるのが当然の成り行きではないかと思います。
今までは食糧庁の検査官が検査印を押してくれさえすれば堂々と販売できましたが、これからは、自分たちのお米に自分たちが検査印を押すようなものですから、販売したあとまで責任がついて回ります。今回のように、偽った商品など販売してしまえば、会社(農協)存亡の危機に立たされますし、偽らないまでも、品質の悪いものに「一等級」などの保証(検査印)を押して流通させたら、たちまち信用をなくしてしまいます。
最近では内部告発によって大会社の不正が暴かれ、優良企業といわれているところが倒産するということが起こっています。期限切れの食品をゴミにしてしまって良いのかとか、消費者や小売業者が欠品を我慢してくれられるかなどという、簡単には解決できない問題もあります。企業内部だけで議論するのではなく、消費者や生産者までを含めた食糧問題として議論を深められないものかと思います。
8月30日の新聞には、東京電力による原子力発電所の検査記録改ざんの記事が出ていました。アメリカの巨大企業の不正経理事件をはじめ、企業のモラルが信じられなくなってしまいました。首相の北朝鮮訪問など大きな記事もあり、食糧問題などどこかに吹き飛ばされそうですが、身近な問題ですので今後も注目して見て行きたいものです。(8月31日産直だより「安積野」より)
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