多国間進歩的関与政策-南アフリカから学ぶ北朝鮮問題
執筆者:中野 有【ブルッキングス研究所客員研究員】
ニューヨークタイムズの外交コラムニストのトーマス.フリードマンが中東問題で面白い表現を使っている。シリアやレバノンへの関与は、ブッシュ政権の戦争的関与では、危険すぎ、またフランスの建設的関与では弱すぎる。そこで、その間の挑戦的関与が機能するのではないだろうかと考察している。フリードマンは、ピューリッツアー賞を3回受賞した論客である。たまたま彼の講演を聞いたのだが、その聴衆をひきつける魔力に魅せられてしまったかもしれないが、このフリードマンの考えは、北朝鮮問題にそのまま当てはまるのではないであろうか。
ラムスフェルド長官の北朝鮮政策は、いくら北朝鮮がイラクのような戦利品がなくともきな臭いと感じ、ノムヒョン大統領の太陽政策の流れでは弱すぎる。そこで、北朝鮮が多国間の対話を望んでいるタイミングに、多国間の進歩的関与政策が生きてくるのではないだろうか。なにもしない封じ込め政策や経済制裁よりも積極的、挑戦的進歩的な関与政策が求められていると考える。
そこで、南アフリカのアパルトヘイト廃止に向け経験したことを語らずにいられない。もう20年も前のことだが、何故かアフリカ大陸への憧れと、人種差別政策を体験しようと思い南アに乗り込んだ。乗り込んだというより、2年間も滞在したのだから、アパルトヘイトに挑戦したといったほうが適切かもしれない。
文化交流に制限のある南アに行く物好きな日本人は、そう多くいなかったが、実際、百聞する南アと一見する南アは違っていた。日本人は名誉白人であるが差別を受けるものと思っていたが、そうでもなく黒人、カラード、インド人、白人とすべての層にわたり友人のネットワークができた。振り返れば、現在生活するワシントンの方が、差別というものはなくても結構、人種間の隔たりがあるように感ぜられてならない。
南アの人口の2割に満たない白人が、政治、経済を握っている現状を見て、多くの人々は平和のためには紛争の回避は難しいと読んでいた。当時(1984-86年)、アパルトヘイトを終えるために、南アを孤立させるべきであるとの考えから経済制裁が世界の主流であった。日本も多くのヨーロッパ諸国もそうであった。何故か、アメリカのレーガン政権は、世界の潮流に逆らい建設関与を唱えていた。
この政策に興味を持ち、南アの大学で「建設的関与と経済政策の効果」について研究した。研究しているうちに答えは、単純であることに気がついた。それは、白人と黒人の共通の利益を探ることによっていずれ対立は解消されるという考えであった。
そこで、白人に「どうしてアパルトヘイトを支持するのですか」と問い掛けてみた。判を押したようにほとんど同じ答えが返ってきた。黒人に一人一票を与えると必ず共産主義になり現在の生活を維持できない。黒人の教育水準が低いのが問題であると。
黒人に問うてみた。これもほとんどすべてが、非白人に教育の機会が必要とのことに関するものに集約できた。
レーガン政権の考えが卓越していると感じたのは、建設的関与を通じ、南アに投資を進め、黒人に雇用と教育の機会を提供することを実行した所である。事実、それから5年で平和裏にアパルトヘイトが解決したのである。奇跡である。アパルトヘイトが無事終わった背景には、勿論多くの要因が関係してようが、少なくとも歴史は建設的関与が効力を発揮し、経済制裁は解決策にならなかったことを証明している。
この南アの成功例を北朝鮮問題に応用できないかと、長く考えてきた。北朝鮮は、体制を維持するために、大量破壊兵器から、麻薬や拉致まであらゆる悪事を働いている。恐ろしい国である。やはり、このような国には、経済制裁は必要である。ただし、短期間の経済制裁を。しかし、国際社会の歩調が合わない経済制裁は、何も効果を発揮しないと思われる。
そこで、短期間の経済制裁を課した後、建設的関与を超えた、フリードマンが指摘するような挑戦的な関与を仕掛けてみるタイミングがそう遠くない時期に到来するように思われる。
北朝鮮の100人のテクノクラートが、2200万の国民を掌握しているのが真実とすると、両者の共通項は、何ぞやとの答えを導くことにより紛争を回避しながら北東アジアを安定と発展に向かわせる構想が生まれる。
答えは、多国間協力と進歩的、挑戦的関与を組み合わせ、北朝鮮と周辺に大規模な社会資本整備プロジェクトを推進することである。教育、貿易、投資といったソフトインフラも大事である。金体制もこのような、国と国との交流のみならず、イラクの復興と同時に、北東アジアにおいては、積極的な平和構想と北朝鮮の国民が分かち合える社会資本整備を推進すべきである。挑戦的関与とは、金体制を妥協させる政策と考えると面白いのではなかろうか。
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