2004年大統領選(1)-パイオニアとレンジャー
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
■動き始めた2004年大統領選
7月18日、ブッシュ大統領は、地元テキサス州にもどり、2日間にわたる大統領選に向けた選挙資金を集める夕食会を開く。二晩で集めた総額は約700万ドル(約8億3000万円)にのぼり、圧倒的な集金力を見せつけた。
米連邦選挙委員会(FEC)は7月15日、来年11月の米大統領選に立候補する意向を表明している候補者が今年4月から6月に集めた選挙資金の集計を公表した。ブッシュ大統領は3440万ドル(約40億6千万円)を集め、
民主党9候補の総額3072万ドル(約36億2千万円)を上回っている。
【民主党立候補予定者の集金額】ハワード・ディーン前バーモント州知事(54)760万ドルジョン・ケリー上院議員(59)590万ドルジョゼフ・リーバーマン上院議員(61)510万ドルジョン・エドワーズ上院議員(50)450万ドルリチャード・ゲッパート下院議員(62)390万ドルボブ・グラム上院議員(66)デニス・クシニッチ下院議員(56)150万ドルキャロル・モズリーブローン元上院議員(55)14.5万ドルアル・シャープトン牧師・黒人運動指導者(48)5.5万ドル大統領選挙を勝ち抜くには、テレビCMを利用したキャンペーンのために、巨額な選挙資金を必要とされ、候補者の「集金能力」の優劣が選挙戦の行方に直結する。特に今回は規制逃れの「ソフトマネー」を禁止した政治資金改革法が適用される初めての大統領選となることから、各陣営の戦略に注目が集まっている。
■政治資金改革法の成立
2002年3月27日午前8時、米国議会で激論の末、可決された選挙資金改革法がブッシュ大統領の署名によって成立した(発効は同年11月の中間選挙後)。米国ではウォーターゲート事件直後の1974年以来、30年越し選挙資金の規制強化が叫ばれてきたが、議会の反対にあい、掛け声だけに終わってきた。1992年には、議会は政治資金規制法案を可決したが、当時のブッシュ・パパ元大統領が拒否権を行使し廃案になった過去がある。
この改革法の後押しをしたのはエンロン・スキャンダルである。法案は共和党のマケイン、民主党のファインゴールド両上院議員が提出したが、大企業からの献金に頼る与党共和党内には反対論が強かった。しかし、エンロンのケネス・レイ元会長兼最高経営責任者(CEO)がブッシュ大統領の最大の資金支援者だったことから、政権内では「規制に反対し続ければ疑惑の目で見られかねない」とのムードが強まり、議会側も規制やむなしに傾いた。
これまでも大統領選で政治献金を受け取る場合、個人から候補者や政党の全国組織に献金できる額の上限は決められていた。しかし、政党の全国組織が政党運営費などの名目で企業や労組から無制限に献金(ソフトマネー)を集めたり、企業や労組が特定候補を支援するために設置する政治活動委員会(PAC)が独自に寄付を集めたりするため、2000年大統領選では政党全国組織への献金は約5億ドル(約600億円)に達した。
主な改正点として、(1)企業・団体・個人が政党の全国組織に提供することを禁じる(2)政党の地方組織向け献金は、1組織につき年間1万ドルまで認める(3)個人の候補者への献金は、上限を選挙1回につき1000ドルから倍の2000ドルに引き上げる(4)政治関連団体による敵対候補者を狙い撃ちするようなメディアへの広告は選挙の60日前から、予備選の場合は30日前から禁止する、などである。
なお、集金力で優位に立つ共和党の主流派には法案への反対論も根強く、党内には「法案は違憲」として法的な対抗措置を求める動きもある。その急先鋒は、マコネル上院議員(共和党)や政界に影響力を持つ全米ライフル協会である。
■ブッシュ陣営の戦略-パイオニアとレンジャー
ブッシュ陣営は2000ドルを献金してくれる人をできるだけ多く集め、効率よく資金を集める戦術をとる。一連の政治集会で、最終的には前回2000年大統領選時の2倍にあたる2億ドル(約236億円)を超える選挙資金を集める見通しで、莫大な資金力により民主党候補の圧倒を目指している。
資金集めの方法は2000年と同様に組織的に行う。前回は10万ドル以上集めた人を「パイオニア」と呼んだが、今回はさらにその上に20万ドル以上集めた「レンジャー」の肩書を設けた。ブッシュ大統領がかつて共同所有した大リーグのテキサス・レンジャーズを思い起こさせる。
資金集めの中核には大企業の最高経営責任者(CEO)やロビイスト、エネルギー会社幹部、ベンチャー・キャピタリスト、投資銀行家などをあてる。彼らは取引先などを中心に上限の2000ドルを献金してくれる人を集めてパーティーを開き、集めた金をまとめて献金している。
米ジョージタウン大学のクライド・ウィルコックス教授によれば、共和党の支持者は平均年収50万ドル(約6000万円)の人たちで、2000ドルく
らいは喜んで出すとのことである。かたや民主党は1枚50ドル(約6000円)程度のチケットで集会を重ねているようだ。
■パイオニアとレンジャーを操るもの
多額の資金を集めたご褒美は様々だ。ドナルド・エバンス商務長官との夕食やブッシュ大統領との記念撮影などが用意されている。更には、閣僚への道も拓けるかもしれない。2000年の大統領選では212人が「パイオニア」となったが、その内の43名が米国大使などへの公職に就くことになる。そして最高のご褒美を手にしたのは2名である。ひとりは、共和党と中国を繋ぐチャイナ・コネクションの要であるイレーン・チャオ(趙小蘭)労働長官、そしてもうひとりが、同時多発テロ後、ホワイトハウスの国土安全保障局を率い、2002年には、22の関連政府機関を統合して職員17万人を有する巨大省庁に生まれ変わった国土安全保障省のトム・リッジ初代長官である。
野心を抱くものがパーティーの場で真っ先に探す人物は、エバンス商務長官でもブッシュ大統領でもない。その人物は、ブッシュの再選戦略を仕切るカール・ローブ大統領上級顧問(政策・戦略担当)である。
「パイオニア中のパイオニア」であったエンロンのケネス・レイ元会長兼最高経営責任者(CEO)は、このあたりの事情に精通していたようだ。レイ元会長はブッシュ政権への政治任命候補者として21人を推し、このうち3人が実際に任命されている。特に、エネルギー業界の監督官庁である連邦エネルギー規制委員会(FERC)については、レイ元会長自らの電話によりパトリック・ウッドら2人の委員の起用を強く働きかけており、2人とも任命されてウッドは委員長に就任した。この電話の相手こそが、ローブ上級顧問であった。
この単純明快なアメとムチの政策は、そのまま対イラク戦にも適応される。欧州における「新しい欧州」と「古い欧州」の分断政策などはその象徴である。しかし、魅力的に見えるアメの危険性も認識しておくべきだろう。エンロンのレイ元会長はこのあたりの事情も一番良く知っているはずだ。
(つづく)
□引用・参考
共同通信・時事通信・ロイター・毎日新聞・日経新聞・讀賣新聞・産経新聞・朝日新聞他
FederalElectionCommission
http://www.fec.gov/
BushRaisesMoreMoneyThanAll9Challengers