執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】

■エアー・パワーと英BAEシステムズ

英国とオランダは、米国とユーラシアに二股をかけて絶妙なバランスを取りながら、「ショー・ザ・フラッグ(旗幟鮮明にせよ)」を極力避けてきた。今回の対イラク戦で特に英国の存在がなければ米・欧の対立はより深刻になっていたかもしれない。しかし、冷戦終結後、英国はユーラシア寄りに軸足を変えつつある。

欧州12ヶ国で設立したアリアンスペースでの英国の出資比率も2、12%(オランダ1.97%)と控え目な参加に留めていたが、2001年からボーイングを抜いて世界第一位の民間航空機メーカーとなったエアバスには、英国を代表する航空防衛企業であるBAEシステムズが20%を出資している。このエアバスは、仏・独・スペイン連合のヨーロピアン・エアロノーティック・ディフェンス・アンド・スペース(EADS)との合弁企業である。

そして、このBAEシステムズは、世界第2位のミサイルメーカーであるMBDAにも出資しているのである。MBDAは1996年に設立された仏マトラ・ディフェンスとBAEシステムズ傘下のBAe・ダイナミクスの合弁会社「マトラ・BAe・ダイナミックス(MBD)」を中核に、EADSアエロスパシアル・マトラ・ミサイルズと英伊連合のアレニア・マルコーニ・システムズとの3社統合により2001年に発足した新会社で、現在世界トップの米レイセオンに次ぐ世界第二位のミサイルメーカーとなっている。MBDAの出資比率はBAEシステムズが37.5%、EADSが37.5%、フィンメカニカが25%となっており、アリアンスペースと比べてその積極性が際立っている。

■E爆弾(E?BOMB)を巡る米・欧の駆け引き

対イラク戦に使用されるのではとの観測から世界的に話題になった新型兵器がある。「E爆弾(E?BOMB)」と呼ばれるマイクロ波照射弾で、人を殺傷せずに強力な高出力マイクロ波「HPM」によって瞬時にコンピューターやレーダーなどの電気・通信系統を破壊する「ワンダー・ウェポン」(驚異的な兵器)である。米空軍が対イラク戦開始直後の3月25日から二日続けて行ったイラク国営テレビ局への攻撃でE爆弾が初めて実戦使用されたと米CBSテレビが伝えたが、実際にはイラク国営テレビは一時的に中断したもののすぐ再開したことから、多くの専門家はE爆弾の使用はなかったとみているようだ。

このE爆弾を開発したのは、MBDAの前身であるフランスのマトラ・ディフェンスと英国BAEシステムズ傘下のBAe・ダイナミクスの合弁会社「マトラ・BAe・ダイナミックス(MBD)」であった。最新鋭の新型兵器が米国企業ではなく、フランスと英国の企業体によって開発されている現実を直視すべきである。

米・欧間の企業部門でのリムランドのような存在となっているBAEシステムズを巡って米国のボーイングやロッキード・マーティンがM&Aを仕掛けるのではとの噂が繰り返し流れているが、英国のユーラシアへの接近に対するブッシュ政権の苛立ちを象徴しているかのようだ。欧州勢が恐れるのは、民間部門で協調関係も有するボーイングではなく、ロッキード・マーティンの存在であろう。かつてのロッキード事件によって米欧のグローバル・ビジネス・リアリストの拠点であるビルダーバーグ会議の初代議長を務めたオランダのベルンハルト殿下が失脚したことを思い出しているに違いない。現在のブッシュ政権はまさにロッキード・マーティンとの関係がますます密接になってきた。

■ブッシュ政権の軍産インナー・サークル

ブッシュ政権は、このロッキード・マーティンやノースロップ・グラマン、レイセオン、ボーイングなどの国防企業と、ランド研究所、新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト(PNAC)、ヘリテイジ財団、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)、安全保障政策センター(CSP)、国家公共政策研究所(NIPP)などのシンクタンクからなる回転ドアで繋がる強固な軍産インナー・サークル(奥の院)を構成しており、主要閣僚ポストには軍産インナー・サークルの攻撃的なビジネス・リアリストやネオコンが多くを占めている。

特に米国防産業の最大手であるロッキード・マーティンとブッシュ政権とのかかわりは密接である。2001年から2002年にかけてのロッキード・マーティンの政治献金は236万9000ドルに上り、その6割が共和党に向けられている。チェイニー副大統領夫人であるリン・チェイニーは1994年からロッキードの取締役となり、マーティン・マリエッタとの合併後も取締役に再任され、2001年1月まで取締役会に留まっていた。そしてラムズフェルド国防長官もロッキード・マーティンと関係の深いシンクタンクであるランド研究所の理事を務めていた。PNACのブルース・ジャクソン所長はロッキード・マーティンの元副社長である。また水曜会に参加するCSPのフランク・ギャフニー所長もPNACの設立メンバーのひとりとなっているが、このCSPとNIPP双方の理事会メンバーとなっているチャールズ・クッパーマンは、ロッキード・マーティンの宇宙・戦略ミサイル計画部門の副社長である。なお、CSPはロッキード・マーティンやボーイングなどから300万ドル以上の寄付を受けており、軍産インナー・サークルを資金面で支えているのは軍事産業であることがわかる。

ブッシュ政権の軍産インナー・サークルが一体となって推し進めてきたのがミサイル防衛システム(MD)であり、とくに安全保障政策センター(CSP)、核兵器では国家公共政策研究所(NIPP)が中心的な役割を担ってきた。

日本政府は、2003年12月19日の安全保障会議と閣議でミサイル防衛システムの導入を正式に決定し、2004年度予算案に日本全域を射程に収める北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」の迎撃を念頭にミサイル防衛システムの実戦配備費として初めて1068億円(契約ベース)を盛り込んだ。これには、地上配備型の地対空誘導弾パトリオット3「PAC3」と、イージス艦に搭載する海上配備型のスタンダードミサイル3「SM3」が含まれており、2007年から一部を稼働させる計画となっている。調達費の総額は約5000億円だが、防衛庁の試算では、維持管理費も含めると8000億から1兆円規模に達する見通しとなっている。

この商談成立には、北朝鮮を「悪の枢軸」とすることで、日朝間の緊張を高めたことが大きく貢献したのである。小泉政権は、対イラク戦支持、イラクへの自衛隊派遣、日本の防衛力強化、そして将来の憲法改正へと向かうための大義名分として、北朝鮮カードを積極的に活用してきた。石破防衛庁長官が武器輸出三原則の全面的な見直しの必要性を示しているが、これには日本がブッシュ政権の軍産インナー・サークルの一角を担う野心すら感じられる。

しかし、冷静に考えれば、北朝鮮の軍事力の緻密な検証すら行われていない中で、連日メディアが煽る脅威が一人歩きしているようにしか見えない。またテロに対するミサイル防衛システムの有効性に対する現実的な議論も見えてこない。ミサイル防衛システムの日本での一部稼働が予定されている2007年を迎えた時、一兆円規模の価値が見いだせるかどうか疑問である。

■「ブッシュ・チームを月か火星に送っちまえ」

2004年1月14日、ブッシュ大統領はワシントンの米航空宇宙局(NASA)本部で演説し、月面への宇宙基地建設や火星への有人宇宙飛行などを盛り込んだ新たな大規模宇宙開発計画の概要を明らかにした。1961年のケネディ大統領の月への有人飛行計画発表以来となる大規模宇宙開発計画となり、「われわれは月面に新しい足跡を付け宇宙旅行を準備するため新しい宇宙船を建造する」と語る。

この計画には、チェイニー副大統領や国家安全保障会議のメンバーが深くかかわったと言われており、軍産インナー・サークルの存在がここでも脚光を浴びることになる。ブッシュ大統領は、新設される宇宙開発計画の諮問委員会の委員長にピート・オルドリッジ前国防次官を任命しているが、オルドリッジは地下核実験再開の必要性を主張したタカ派で、2003年5月に国防次官を退官、翌月にはロッキード・マーティンの取締役に就任していた。またダグラス・フェイス国防次官らと共にCSPの軍事委員会のメンバーになっていた。

ブッシュ大統領は、新宇宙開発計画で通信やエネルギー、新素材などの技術革新が、米産業界に新需要をもたらすとの期待を表明し、税金の無駄遣いではないと強調、有権者の理解を求めたが、大統領選を目前に控えた古くさい戦略との批判が国内外から高まることになる。国際的な環境保護団体である地球の友は、「火星探査に使う巨額の資金は、地球温暖化対策など、地球のために使うべきだ」とする声明を発表し、米国市民の間からは人類の将来のために「ブッシュ・チームを月か火星に送っちゃえ」と呼びかける洒落たコメントも登場している。

ブッシュ政権にはぜひとも金星便もお願いしたい。石破防衛庁長官の長官室には自作の戦艦や戦闘機のプラモデルがずらりと並んでいる。月や火星や金星に行けば、広大なスペースを利用して思う存分楽しめるはずだ。「歩く月刊明星」こと石破茂オンステージも待っている。得意の河合奈保子や岩崎宏美やアグネス・チャンの歌を熱唱する姿が思い浮かぶ。一番好きなキャンディーズのミキちゃん演じる防衛庁長官、果たしてランちゃん、スーちゃんは誰がやるのだろうか?

月や火星が彼らを受け入れてくれればいいのだが・・・・。

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