執筆者:豊島 博幸【広島県大竹市・とよしま医院】

先日来、「萬晩報」のメールマガジンを毎日楽しく読ませて頂いております。さて、本日の主幹の記事「麻生病院」の件ですが、内容の一部に少し誤解されているようなので意見させて頂きます。

1.株式会社経営の病院について

既存の株式会社経営の病院と今後の規制緩和で出てくる病院には全く質的な差があることをご理解下さい。既出「麻生飯塚病院」は炭坑隆盛の頃、従業員の保養のために本社(炭鉱経営)の付属施設として開設されました。今日のJR病院、逓信病院、新日鐵病院、トヨタ病院、私が勤務していた宇部興産中央病院、あるいは三井記念病院もそうだと思います。それらは当初、従業員のための病院で一般市民が利用できないクローズドな施設でした。しかし今日では市民に開放され、多くは市民病院的な役割を果たしてします。

麻生飯塚病院も飯塚市のみならず筑豊地区住民の基幹病院を担っています。しかし経営は株式会社でもあくまで本社の一部門にすぎません。今の医療政策での病院経営は苦しく、赤字を解消することが命題で、決して病院経営で利益を上げ、本社の決算に貢献することを目的とはしていません。否、その病院の地域的使命上、現行の医療政策のもとでは不可能です。(個人的には麻生大臣の資質は嫌いですが、麻生飯塚病院の地域への貢献は評価しています)

ここが、今後の規制緩和で出てくる株式会社経営の病院とは決定的に違います。今、議論されているのは利潤の追求、株主への配当確保を目的とした病院経営の形態の可否です。勿論、現行の法人立病院でも、今の時代でも着々と利益を上げている病院はたくさんあります。それらが、利益を上げられるのは優れた病院経営によるものかと言われれば、首を傾げざるを得ません。

採算性を重要視する経営姿勢は、採算性の悪い診療科の切り捨て(小児科、歯科など)と採算性の高い診療科、病気への特化に他なりません。この傾向を市民レベルで見たとき果たして正しい医療のありかたなのでしょうか?不採算部門の診療科や不採算になる病気は誰が責任を持って医療を行うことになるのでしょうか?

2. 「病院の経営形態などなんでもいいのだ」について

全く賛成です。しかし良質な医療を提供するためには不採算部門も切り捨てなくてもいい、余裕のある経営をするにはどうしたらいいのでしょうか?

戦後、日本は資本主義の矛盾を反省し、修正資本主義の一つの政策として国民皆保険制度が誕生しました。誰でも、何時でも、自分の好む医療機関を受診できる日本の医療制度は世界に誇る制度であることを言論人の方々にはもっと認識して頂きたいと思います。

先週のTV番組の中で、あるスポーツ選手がアメリカで練習中に負傷し、出血するため直ちに近くの病院を受診した際、受診手続きに時間がかかり、実際の診療を受けたのが病院到着6時間後であったとの怒りの談話が放送されました。

これは彼の語学力の問題ではなく、アメリカの医療制度(特に保険制度)の問題点を明らかにしたエピソードです。アメリカの保険制度は民間の運営が主体となっており、受診手続きが日本以上に複雑で、診療内容も個人の所属する保険会社が決定するため医療機関はその保険会社にお伺いを立てないと診療が開始できないのです。

またイギリスでは診療の門戸が狭く、癌患者の手術が半年待ちとなるため、多くの国民は隣のフランスに行って手術を受けていることも知られています。

民営化、規制緩和の流れは純度の高い資本主義体制への流れです。純度が高いということはムダのないことです。経営上のムダを省くことは余裕のない病医院経営を進めることです。これは先ほど述べたように金持ちはより金持ちに、弱者はより弱者への道です。私は「良質な診療」の提供方法はムダを許容することだと思います。

自衛隊隊員が訓練に明け暮れ、消防署の職員が署の壁を登り降りして筋トレをしている膨大なムダの時間を誰も問題にしません。この日々のムダがいざという時に役に立つことを知っているからです。医療の中でも役に立つムダを包容する姿勢が官僚や政治家にも必要と思っています。

しかし医療の質を問わない全国均一な医療費、国の認可を受けないと導入できない新しい医療技術、悪質な医療行為など、制度上の綻びが多く目立ってきていることも勿論、指摘されるべきです。

最後に、郵政民営化も都会に住む者にとってはメリットがあるでしょうが、過疎地に暮らす人にとっては不安材料が多く待ちかまえています。また現場の郵政職員にとっても今までの公務員としての優遇された労働条件から一転、民間の宅配便会社の過酷な労働が待ちかまえているのでしょう。私は現行の郵政職員の労働条件を羨ましく思っても、奴隷のような佐川急便の労働者になることが良いことだとは思いません。

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