公明が自民を見捨てる日
執筆者:成田 好三【萬版報通信員】
自民党は政権政党である以外に存立理由のない政党である。それと同様に、公明党もまた政権連立与党である以外に存立できない政党である。
近年の国政選挙で自民党は、公明党・創価学会(以下公明党と記す)の支援(推薦、支持など)なしには戦えなくなってきた。組織としても、議員個々の選挙でも同じである。7月に行われた東京都議選でほぼ改選前の議員数を維持できたのも、公明党の支援によるものである。
それでは、公明党が支えても、自民党が政権を維持できなくなったら、公明党はどうするのか。その答えは明らかである。地方自治、地方選挙の実態を少しでものぞいてみれば、誰にでも分かることである。
国政とは違って、地方自治は議院内閣制ではなく、大統領制に近いものである。首長(知事、市町村長)と地方議員はそれぞれ別の選挙で選出される。
地方議会において、公明党は市町村から政令指定都市、都道府県に至るまで、ほとんどすべて政権与党(首長与党)化している。
多くの地方議会は、多数を占める自民党を含めた保守系議員が一枚岩ではなく、会派が分裂しているため、公明党会派は議員数以上の発言力をもつことになる。保守会派が複数に分裂した市議会などでは、少数の公明党会派が議長ポストに就くことさえある。
地方の首長選においては、極めて多くの場合、当落のキャスティングボートを握るのは、公明・創価学会票である。
泡沫候補を除いて、共産党系候補以外で複数の有力候補が出馬した場合、当落の判断に世論調査など必要としない。公明党がどの候補を支援しているかをみればいいだけである。
逆に、公明党が支援する候補を明確にしない場合は、その選挙は間違いなく当落の予測が難しい激戦になる。
地方の首長選において、公明党は常に勝ち馬に乗る戦略を取る。勝ち馬を読む能力は驚くほど高く、間違いを犯すことはほとんどない。勝ち馬が事前に見極められない場合は、当選後の首長をじんわりと取り込んでいく。首長の多くも喜んで公明党に取り込まれていく。初当選した首長にとっては、次の選挙で公明党の支援を得られるかどうかは、再選されるか否かの分かれ道になるからである。
地方選挙において極めて大きな影響力をもつ公明党だが、公明党直系の候補を首長に当選させることは難しい。公明・学会票以外にも多くの支援者をもつ候補を擁立しても、当選させることは至難の技である。公明党直系の首長誕生には、一般有権者のアレルギー的反応が強いためである。
こうした地方自治、地方選挙での公明党の実態を理解していれば、国政での公明党の動きも簡単に読み解くことができる。
公明党の冬柴鉄三幹事長は7月27日、日本記者クラブで会見した。その中で冬柴氏は、郵政民営化関連法案が参院で否決され、小泉純一郎首相が衆院解散・総選挙に打って出た場合、自民党が敗北した際には、極めて慎重な言い回しながらも、自民党との連立を解消し、民主党との連立の可能性があると言及した。
同じ日、冬柴発言の後に記者会見した公明党の神崎武法代表は、「自公両党で選挙結果に責任を負う。過半数を取れなければ自民党と一緒に野党になる」(朝日)と、冬柴発言を言下にに否定した。
翌28日の新聞各紙は、冬柴発言とそれを否定した神崎発言を取り上げた上で、冬柴発言を「(自民党の)法案反対派へのけん制が狙いと見られる」(毎日)などと、いずれも政局狙いの発言だと、発言の意味を矮小化した見方をしていた。
しかし、はたしてそうだろうか。冬柴発言もそれを言下に否定した神崎発言も、公明党内部で周到に準備され、タイミングを見計らって行ったものである。
参院での郵政民営化関連法案の否決の可能性が高まったこの時期に、公明党としては、民主党との連立の可能性について言及しておく必要があったのである。
現在の連立相手である自民党にも、将来の連立相手となる可能性の高い民主党にも、事前に「仁義」を切っておくという狙いである。
しかし、冬柴発言の波紋が広がりすぎては、公明党の利益にはならない。だから、同じ日に党内ナンバー2の発言を党内ナンバー1が否定してみせたのである。
公明党が小沢一郎氏(現民主党副代表)と組んで野党になった時代は、公明党にとって最悪の時代だった。政権中枢(首長与党)を目指す地方と、野党である中央のベクトルが、まったく正反対の方向を向いてしまったからである。公明党はその轍を二度と踏まないだろう。
自民党が政権政党ではあり得ないと判断した場合、公明党は即座に、しかも躊躇なく自民党を見捨てる。そのことは、地方自治、地方選挙の実態をを見れば、疑問の余地のないほど明らかなことである。(2005年7月29日記)
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