2006年08月24日(木)Nakano Associates 中野 有
  旅人にとって旅の暦は重要である。中東・アフリカ、ヨーロッパ、アメリカでそれぞれ5年づつ生活し、日本に滞在した5年はアジアを歩いた。フーテンの寅さ んが地方でたたき売りをして柴又に帰ってきて、また旅立つように、ぼくもたまに日本に帰り、友人と会い、講演やメディアを通じ話をして、また旅に出るとい う旅から旅の人生である。世界を旅しながら感じることがある。
 今回のロンドンの多発テロ未遂について旅人の意見を述べたく思う。
 テロ発覚の3日前にワシントンに戻ってきたので、空港でのわずらわしいチェックを逃れることができた。最近は11日の前後には旅を避けるようにしている。
 理由はシンプルである。2001年の同時多発テロ9.11の数字である。このイレブンという数字は、国際テロ組織が伝える暗示的なメッセージを含んでいるからである。
 それは1989年11月9日のベルリンの壁の崩壊の数字に始まる。11月9日は、ヨーロッパ式に述べると、日が先に来るので、9.11である。東西の冷 戦崩壊の12年後の2001年9月11日に米国の同時多発テロが起こった。その後、2004年3月11日は、マドリッドでテロが発生し、今年7月11日 は、ボンベイでテロが発生した。そして今回のロンドン発、米国行きの航空機同時テロ未遂は、8月11日が標的日とされたようである。
 ここまで11という数字とテロ決行日が重なると単なる偶然とは考えられない。イスラムの過激派が11日に固執する根拠は、どこにあるのか定かでない。し かし考えられるのは、国際テロ組織には日を指定するだけの余裕があるという恐ろしいメッセージだということである。米国や英国では、11日前後をテロ予告 日として警戒する空気があるが、それでもテロを防止するには、容易でないようである。
 ロンドンの旅客機爆破未遂は、ペットボトルに入れられた液状爆弾、すなわち化学兵器の初期的な段階。これは非常に恐ろしいことである。不思議と今まで は、自爆テロが中心であった。国際テロの主犯組織であるアルカイダは、生物・化学兵器をすでに保有していると見られてきたがそれを使用することはなかっ た。生物・化学兵器の使用の歴史は古くBC300年にさかのぼることを考えれば21世の国際テロ組織が、この恐ろしい兵器を避けてきたのが不思議な位であ る。
 テロとの戦争をスローガンに戦いを挑んできた米国は、イラク戦争の失策に起因する中東の不安定要因の経験を踏んで海外への戦争関与政策から米国内の防御 を強化する国際テロ防止に力点を移す兆候が見られる。イスラエルとイスラムのシーア派を中心とする戦争状態においても、米国がどれほどイスラエルを擁護す るか疑問である。イラクへの積極的な関与を唱えた民主党のリバーマン上院議員が敗退した結果からも、3カ月月後の中間選挙を前に米国の孤立主義がさらに進 むものと考察される。
 最後に、国際テロを未然に防止するためには、人権の問題の配慮より実利を重視する必要があると考える。具体的には、空港のチェックにおいて、あくまでテ ロリストとは程遠い老人や一般の人々のチェックが厳重に行われている状況に接し、何故もっとテロリストらしきイスラム国家の乗客のチェックに焦点を絞らな いかとの当然の疑問を抱くのである。
 生物・化学兵器の使用が予測される国際テロの恐ろしさを考慮すれば、人権問題を無視するとは言わないまでも、身を守るという意味において安全保障や自己管理をもっと真剣に取り組む必要がある。
 11日前後の旅を避けること。テロから身を守る自己管理術として、これは実行できることである。

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