最近、意味の分からない議論が多すぎる。東日本大震災の復古財源に充てる復興債の償還期間が25年に延長されることで与野党が合意した。そもそも復興債の 発想は「次世代に負担させたくない」(野田佳彦首相)ということから始まった。当初10年で返済するはずだったものが、自民党の要請で25年に延長されて しまった。
 与野党の合意は歓迎すべきことだが、25年となれば、確実に次世代に引き継がれることになってしまう。そうなら、あえて「復興債」などという仰々しいこ とをしなくても建設国債でも赤字国債でもよかったはずである。この間の与野党の議論はなんだったのかと思うととたんに疲れが出てしまう。
 一方、会計検査院が野田首相に提出した2010年度の決算検査報告書によると、税金の無駄遣いは約4283億円だったそうだ。金額で2009年の1兆 7904億円に次いで過去2番目に多かった。ちょっと待て。東日本大震災の復興に使う11兆2000億円を25年で割ると4480億円。国の無駄遣いとほ ぼ同じではないか。政府が無駄遣いをやめれば、復興債など出さなくとも賄える金額ではないのか。
 そんなに毎年、巨額の無駄遣いが出るわけではないといかぶる向きもあろうと思うが、実は2006年度までは数百億程度だった無駄遣いの指摘が翌年度から 千億円の単位となっているのである。2006年度310億円だったのが、2007年度は1253億円、2008年度は2364億円と続く。
 これは消費税増税の議論の中で「まずは無駄遣いをなくせ」という与野党の機運が盛り上がり、会計検査院としても本気にならざるを得なくなったからである。民主党の仕分け会議でなくとも、公務員でもやろうと思えばできることを証明しているのである。
 野田政権は何もやらない政権かと思っていたが、なかなかしたたかである。というより従順である。消費税増税、TPP、復興税、普天間・・・。官僚の振り 付けのままに中央突破を図ろうとしている。官僚の議論はある意味で緻密に積み重ねられているから、国会の論戦でもたじろぐことはない。ちゃんと答弁書を用 意してくれるから心配もない。
 官僚のへりくつに従って、後は馬耳東風を決め込んできたのは歴代の自民党政権だった。その自民党の手法を真似ていれば「政権の安定」が図れると考えてい るのだとしたら、それは偉大なる勘違いであろう。脱官僚を目指した民主党が官僚に完全に取り込まれている姿はいかにも痛々しい。
 よく考えてみよう。国民の前で一度だって公言したことのない「消費税10%」の議論を野田首相はカンヌサミットで「国際公約」だと約束してみせた。「税 と社会保障の一体改革」で財源である消費税増税議論を進めながら、肝心のどういう年金を目指すのかの議論は止まったままなのである。8日の国会論戦で、野 田首相は、自民党の野田毅氏が問い詰めたわけでもないのに、質問に対して「ごまかしはありません」と自ら墓穴を掘っていた。
 消費税増税によって民主党のマニフェストである税金による基礎年金の負担ができるのであれば、国民の一定の理解もすすむだろうが、今回の消費税増税によって改善するのは「財政」だけとなれば話は別である。
「税と社会保障の一体改革」は完璧なまやかしとなる。(伴 武澄)