柔道家、太田節三の壮大な夢
友人の大塚さんに薦められて前田秀峯『夢の中に生きた男たち』を読んだ。久しぶりに面白くて一気に読んだ本だった。
戦前の柔道家、太田節三が若くしてアメリカにわたり、プロレスラー、アド・サンテルとの対決でアメリカで名を成した。やがてサザン・パシフィック鉄道の末娘と恋愛の末、結婚し巨額の富を手にしたシンデレラストーリーであるが、物語がそこで終わったのではおもしろくない。
太田節三が渡米したのは、反日移民法が生まれス前夜、20世紀に経済大国となった日米がいずれ相戦わざるを得ないという国際情勢の中で、アメリカが勝利した後の日本再建を見通して活動する中にもう一つの信じられないストーリーが展開する。
アメリカの財閥の娘との結婚で手にした巨額の資金で、世界平和財団なるものを立ち上げ、柔道家を中心に軍部、政財界を巻き込んで戦争回避に動くとともに、日本の戦後シナリオをも描くことになる。結論は太田らのシナリオによって戦後の平和憲法が誕生することになるという話である。
圧巻は戦争直後にホワイトハウスで行われた慰労会の席上にどういうわけか太田節三とその秘書役の林田民子なる女性が登場し、民子がトルーマン大統領になぜ広島、長崎に原爆を投下したか問い詰める場面が設定されている。「100万人の米兵を守るため」というトルーマンの言葉に逆上した民子が一本背負いで大統領を投げ伏せ、次いで助けに入ったスティムソン陸軍長官をも投げ捨ててしまうのである。