酒類対面販売促す 未成年の飲酒防止で報告案 1994年10月16日
1994年、流通業界を担当していた時、業界紙の女性記者が訪ねてきて「私の新聞では書けない。共同通信で流してほしい」と国税庁の審議会報告書案を差し出した。国税庁は社会部の管轄で「青少年の飲酒防止」なら提灯記事を書くはず。経済部は規制緩和派が多く、同じ発表記事でも180度トーンが違う記事が生まれる。その女性のお陰で「特ダネ」記事となった。(2001年5月26日記)
国税庁長官の諮問機関である中央酒類審議会の新産業行政部会(部会長、田島義博学習院大教授)が検討している「アルコール飲料の販売の在り方」の報告案の全容が、15日明らかになった。未成年者の飲酒を防止するため、酒類の「対面販売」を重視、酒類のレジを他の飲料など分離するなどの措置を求めるとともに、現在の自動版売機を将来的に撤廃、プリペイド(前払い)カードのみ使用できる機種などを開発するよう促し、容器への注意表示や宣伝広告規制の強化も盛り込んでいる。
さらに「安く大量かつ手軽に販売すればよい、という在り方は問題が多い」と指摘するなど、価格破壊を進めるディスカウントショップ(DS)やスーパーの動きをけん制。従来の酒類販売店を保護する内容となっている。
国税庁はこの報告案を基に規制を強化したい意向だが、スーパーなどから「未成年者の飲酒防止を口実にした販売規制」との反発を招くだけでなく、海外からも「行政による価格維持策」などの批判が出そうだ。
報告案は「酒類の販売と消費は原則として自己責任に基づく」としながらも、「すべてを事業者や消費者にゆだねることは困難」と行政の関与の必要性を強調。価格などについても、心身ともに発展段階にある未成年の飲酒防止を重視すれば、ある程度の負担は受忍すべきだとしている。
未成年者の飲酒防止策として対面販売を重視、スーパーなどセルフ方式の店舗では陳列方法やレジの分離のほか、未成年者への販売を原則禁止し、親に頼まれ代理購入などの場合は住所と氏名を記入させるべきだとしている。
現在の自動販売機は撤廃。未成年者が買えないような技術的改良を施し、あらかじめ対面販売で購入した磁気カードまたはプリペイドカードのみに使用を限定することを提案。
容器や宣伝に関しては、①マークを考案し、表示する②未成年飲酒禁止の表示を全酒類に拡大する③広告量を抑制し『お酒は20歳を過ぎてからの表示を統一する-などの規制を盛り込んだ。
規制緩和の流れに逆行
「解説」中央酒類審議会の報告は、未成年者の飲酒を防止するための社会的規制」を名目に、酒類業界に「経済的規制」の網をかけ、販売店などの既得権を守るよう求めている。政府が進めている行政改革・規制緩和の流れに逆行するのは間違いない。
その裏には、大手スーパーなどの安売り攻勢に苦しむ酒類販売店など関係業界、そこを支持基盤とする自民党などの族議員、税収を安定的に確保したい大蔵省・国税庁の「癒着の三角形が見える。
ディスカウント店やスーパーは円高効果を狙って輸入ビールなどを安く販売、国産の酒類もつられて値崩れし、免許制にあぐらをかいてきた中小酒類店の売り上げは低迷、国内酒類メーカーの利益にも影響してきている。
今回の酒類審報告には、自動販売機のカード化など業界保護と直接結び付かない措置も盛り込まれているものの、スーパーなどに対面販売を求めるとコストが上昇し、安売りが困難になる。容器への注意表示の義務付けも、安くなっている輸入酒類の販売抑制につながる可能性がある。
大蔵省は九四年度税制改正で、酒類の小売価格上昇を理由に酒税を引き上げた。もし価格破壊がさらに進むと酒税の引き下げを求める声が高まり、将来的に税収減につながりかねない。安売り防止は業界だけでなく、安定的に税収を得たい同省にも大きなメリットがある。