ソウル経由福岡出張 キッコーマン1994年9月
「最近九州出身の学生化ではやっているの知っていますか。成田からソウル経由で福岡に帰省するんです。航空運賃は安い。免税ショップで化粧品も買えるよ。もちろん時間のある
学生だけの特権ですけど」
アジアを勉強する会があり、そこの飲み会で朝鮮半島問題を研究する学生が言っていた話である。翌日、知り合いのANAの社員に問い質したところヽ実際にソウル経由で国内線より安いチケットが発売されているというから驚いた。
地方空港からソウル経由で欧米に旅行するのはもはや常識だが、そんなことは海外旅行に限定した話だと思っていた。しかしボーダーレスは確実に国内線にも浸透してきている。そういえば韓国から日本へは、ソウルをハブに北海道から九州まで十を超える国内空港に乗り入れていることを思い出した。
内外価格差を批判する原稿は書き飽きたから、この学生の話をもとに楽しいことを連想したい。
僕の出身地は高知県。たまに国際線のチャーター便が出るだけでソウル便がないから成田から帰省することはできない。でも出張があるさ。
幸い現在、農水省担当で農業企画の取材で秋には九州に出張する予定がある。出張日程を調整し、帰路は「週末をソウルで」なんてことも可能だ。
出張報告に経費として「成田―ソウル―福岡往復」と書き込み経理課の人を驚かす。「なんでこんな経路なのですか」と問われれば、まず「羽田―福岡直行便が満員だったから」と答える。
経理の人がそんなことで引きドがるはずはない。「じぁ相手のアポイント時間に遅れていいんですか」。相手は「大阪乗り換えという手もあるじゃないですか」というに違いない。
そしたら「大阪乗り換えだと運賃が高くなるんですよ。そもそも直行便より経費が安いんだから問題はないでしよ」とやり返す。
こんな答をしたら、狭い社内のことだから伴てのはなんてやつだ」という風評が立つに違いない。時空問の国内的常識を経費節減をしたのに日本の会社というのはとんでもない方向で人を評価するものなのだ。
そう考えると「国内出張を海外出張に切り換える」。奇想天外な発想は楽しいどころかヤバイことになりそうだ。やるならこそこそやるしかない。
最近、あるビール会社の広報社員が次々と中国上海市と杭州市に出張している。中国での合弁企業の推移と同国のビール事情を視察するのが目的だ。「会社が中国進出を大々的に宣伝しているのに広報課員が現場を見たこともないというのではマスコミにも説明できない」と課長さんが出張の旗振り役になっている。
ふつう役員、部長、課長と偉い順に現地入りするのが日本的常識だが、この課長さんは「俺はチャンスがあったら最後に行く」と言っているらしい。この会社はもともと元気がいいのだが、広報課員はますます元気を出している。
それより驚いたのは、この会社での海外出張は課長決裁だけでいいというシステムだった』。前は社長決裁だったから、海外出張なんてのはめったに行けない」ものだったという。理由は聞いていないが、渡航費が安くなって国内工場や営業拠点への出張とほとんど変わらなくなったからだろう」とかって想像している。
はずかしながら、国際的通信社を標榜する共同通信社海外出張には面倒くさい手続きがありヽ最終的には編集局長の決裁が必要となっている。多くの企業でも同様なのかもしれない。
ことしの鋒渡航者が1300万人にもなるとマスコミはニュースにしているが人口がたった600万人の香港では毎年2000万人以上が海外渡航している。もちろん中国への渡航も含めての話だが、アジアの多くの国ではもはやポーターなどは存在しない。
企業の国際化は輸出や海外拠点を設けることではない。企業企業内の国内外の垣根を拭くくすることなのだと考えている。