7日の日本の衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也氏が高市首相に対し、台湾をめぐってどのような状況が、日本にとって「存立危機事態」にあたるのかと質問した。首相は「たとえば、台湾を完全に中国北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、(中略)いろいろなケースが考えられると思いますよ。だけれども、それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます」と答えた。この高市発言をめぐって中国政府は激しく反発、中国の 薛剣・駐大阪総領事は8日にXで、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」とコメントし、ネット上でもほぼ炎上状態となっている。安倍路線を継承する高市氏が首相になれば、日中間に火種が起きることはある程度予想されていたが、こんなに早く火が着くとは誰もが予想していなかっただろう。

「存立危機事態」とは、2015年成立の安全保障関連法に出てくる法的用語で、同盟国に対する武力攻撃が日本の存立を脅かす事態を指す。そうした状況では、脅威に対応するため、自衛隊が出動できる。高市首相の7日の発言を「翻訳すると」「中国が台湾を攻撃した場合、日本は自衛隊で対応できる」ということになり、中国側からすると、台湾が中国の領土だとする原則を踏みにじったことになる。そもそも台湾有事という用語は安倍氏が首相を辞めた後、台湾のシンポジウムに出席して発言したもの。「台湾有事は日本有事だ」と発言、アメリカ艦船が中国から攻撃を受けたら、日米安保条約ををもとに日本も軍事行動が起こせると示唆したに等しかった。高市発言と安倍発言の違いは、安倍氏が首相を辞めた後、シンポジウムでの発言だったのに対して、高市首相は国会の予算委員会での発言で、日本国の公式発言と捉えられた点である。

 台湾有事が本格的に問題となるのは、ロシアによるウクライナ侵攻以降である。同時にアメリカ海軍高官が「中国による台湾進攻は2017年までにありうる」と発言したことも相俟って、同じようなことが極東で起きたらどうなるのかという問題意識が国内で高まり、先島諸島におけるミサイル配備が一気に進んだ。まさに台湾有事という言葉が独り歩きし、アメリカからの軍事費増強圧力に応える形で、米製武器の爆買いに到っている。安倍晋三というオオカミ少年がいなかったら、日本の対中軍備増強はなかったはずだ。

 恐いのは高市発言を受けたネット右翼の行動である。それでなくとも外国人排除の風潮が強まる中で、中国人に対抗する意識が広がっており、日中間に再び深刻な亀裂が走りかねない。安全保障関連法が成立した10年前に、そもそも「台湾有事」という概念はなかった。薛剣・駐大阪総領事の首を斬る発言は論外だが、高市首相も発言を取り消すぐらいの勇気を示してほしい。