中国の新移民、潤日の存在感
潤日という存在を最近知った。桝友雄大著『潤日』を読んだ。帯に「日本に押し寄せる中国”新移民”とある。「潤」はもともと「儲ける」という意味。ルン(run)と発音する。英語のrun(逃げる)とダブルネーミングになっている。これまでになかった中国人移民の総称。いろいろな理由から大陸で暮らすことができなくなった富裕層やアッパー・ミドルクラスの中国人が、タワマンが林立する豊洲や教育レベルが高い文京区などに住みはじめているそうだ。メディアでは、これまでもタワマンを現金で爆買いする中国人が話題となっているが、潤日は円安で安くなった日本の不動産の単なる購入者ではない。習近平時代になり思想弾圧が強まり、とくにコロナの都市封鎖を経て、富裕層への風圧が日に日に増大している。理由はいらない。人々は、誰でもどこでも身柄を拘束されたり、財産を没収される危険を感じ始めている。
中国ではこれまでも何回か、国外脱出ブームがあった。天安門事件、香港返還後などカナダやオセアニアなど比較的移住に寛容な国々に脱出してきた。日本はこれまで、海外からの労働ビザの取得が難しかったが、少子化による働き手不足から、高度人材ビザの取得が容易になってきており、生活費も安く治安も安定していることから、「日本に住む」ことが富裕層にとって新たな選択肢になってきているというのだ。
これまで、そうした人々の渡航先は、欧米やオセアニアが中心だったが、ここ数年、そうした国々でもビザの取得に時間がかかるようになった。逆に日本で高度人材ビザは短ければ一カ月で取得できるそうだ。それならば、まずは日本を目指そうという判断をする人々が急増している。いわば、日本再評価が始まっている。
中国の人々が裕福になり始めるのは、21世紀になってからだ。マイカーブーム、そして株式・不動産ブームが中国を席巻する。中国人はどうしてあんなに金持ちが多いのだろう。多くの日本人が抱く疑問である。改革開放が始まった1978年の一人当たり可処分所得は171元だったのが、2023年には、3万9218元に達している。これはあくまで平均値。多くの富裕層の蓄財はマンション投資によってもたらされている。2000年にマンションを購入した人はすでにローンの支払いを終えているはず。大都市部のマンションだったら、数億円で売却しているはず。富裕層は二つ、三つのマンションを保有するのはざら。資産を売却すれば、汗水たらさなくても日本で家族で優雅に暮らせる。
潤日で特徴的なのは、グローバルな視野を持ち、世界の先進国を見まわし、比較検討の上、日本を選んでいる。文化人、起業家、知識人、エンジニアまで多岐にわたるプロフェッショナル。改革開放以降に日本にやってきて定着した新華僑たちは一生懸命、日本語を習得して、日本社会に溶け込もうとしたのと違う。
一つだけ興味深いのは、子どものいる潤日たちの行動だ。潤の目的の一つが教育環境なのだ。郭偉さん(47)は2023年に潤日した。22年春、上海がロックダウンされたことがきっかけだった。15歳の息子は市内の私立に通っていたが、いつ出国制限をかけられるかもしれないという危機感から保護者の間で、子どもの卒業を待たずに移住すべきとの考えが保護者の間で広まった。同じクラスの生徒の三分の一が一年で中国を去ったという。そのほかにも、中国で近年強化される教育への締め付けも要因となった、思想教育が強化されるだけでなく、私学の比率を引き下げる方針も打ち出された。郭さんのような事情での潤日も少なくなく、都内のアメリカンスクールや進学塾でも中国人子弟の存在感が際立ってきている。