日本史の教科書で江戸時代後期の文化・文政時代、江戸を中心に発達した町人文化を「化政文化」と習ったが、当時流行った黄表紙などなんのことか知らなかった。ただ、十返舎一九という妙な名の作者や南総里見八犬伝など本の名前はけっこう憶えている。浮世絵や滑稽本、歌舞伎、川柳などの全盛期で、その中心にいたのが、蔦屋重三郎だった。今年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公である。蔦屋は1750年、吉原に生まれ、その茶屋「蔦屋」を営む喜多川家の養子となった。本名は喜多川柯理(からまる)。1773年、吉原に書店を開いて「吉原細見」を販売、序文に平賀源内を起用したのが評判となり、その後、日本橋に店を開いて狂歌本や黄表紙などを相次いで手掛け、歌麿、写楽、北斎らの浮世絵を世に送った出版界のプロデューサー的役割を果たした。蔦屋に関する何冊かの書籍を読んで驚くのは、当時の著名な作家のほとんどが蔦屋の世話になっていることである。また、狂歌師や戯作、黄表紙の少なくない作家が本来、お堅い武士の出身であったことも驚きだった。江戸時代まで日本に出版技術はなく、書籍は写本が基本だったが、この時代になると木版画技術が発展。寺子屋の普及で読書人口も急速に拡大した。欧州での印刷技術はグーテンベルグが1445年までに活版印刷技術を考案してから発展したが、印刷した書籍が一般に浸透するまでには相当の年数を必要とした。江戸の出版物の特徴は絵入り本であり、多色刷りの浮世絵であろう。