地方行政のいびつな賃金制度
田舎だからと言って、東京都と比べて高知市役所の給与が安いわけではない。人事院勧告によって都会並みの給与が保障されている。逆に民間企業の賃金が安いので市民から高給取りの印象を受けている。行政サービスを受ける市民からすると、市の施設のどこの職員も一緒なのだが、実は給与の違う三種類の職員が存在する。まずは正職員。試験に合格して採用され、年功序列で給与もアップする。定年になれば退職金も出る。平均賃金は614万円。
だが、市民窓口などの職員のほとんどは会計年度任用職員。舌を噛みそうな制度名だ。採用期間が一年で、普通、二回の再雇用が認められる。初任給はほぼ同じだが、定期昇給がほぼない。ふつう三年を超えるともう一度、公募の採用試験を受けなければならない。20年働いている職員は七回採用試験を受けていることになる。平均賃金は242万円。正職員の3分の1。
もう一つの形態は、指定管理者によって採用された職員。指定管理者制度はスポーツ施設や図書館など3年とか5年とか役所の仕事を民間に業務委託する制度。民間人なのだが、市の施設で働くため、一応、公契約条例による最低賃金が定められている。高知市の場合、ほとんどが最低賃金に毛の生えた程度の賃金しか受け取っていない。会計年度任用職員と比べるとさらに低い。高知市では令和7年から、この最低賃金を引き上げたが、それでも時給1000円ちょっとでしかない。市政の民営化が始まって相当の年月が経つが、こんな制度を続けていれば、民間賃金が上昇するはずもない。
龍馬の生まれたまち記念館で昨年12月まで働いていたある職員は「学芸員」という資格がありながら、手取り15万円程度の収入しかなかった。つまり額面で20万円なかった。高知市役所の初任給のレベルで、年間、手取り200万円もない。ボーナスも雀の涙。「40歳を過ぎても車はおろか、結婚さえできない」。学芸員と言えば、博物館の中核を担う職場である。博物館の企画展の存在は学芸員なくしてあり得ない。そんな生活を余儀なくされていた。指定管理者制度の導入によって、龍馬の生まれたまち記念館では将来に希望のない労働者を再生産しているといえるのだ。
会計年度任用職員制度が導入される前は、パート制度が担っていた部署であるが、もはや「補助的」な仕事ではない。労働市場では一般的に「同一労働同一賃金」が常識化しているのに、三種類の賃金が横行している。令和5年度の高知市の正職員は2471人。会計年度任用職員は766人。
高知市で驚くべきはごみ収集車の作業員にまで会計年度任用職員制度が導入され、58人が働く。環境部に聞くと「運転手と二人の作業員で仕事をしているが、作業員の一人は正職員だが、もう一人は会計年度任用職員」なのだという。事務職より多少給料は多いが、よくそんな給料で働いてくれるものだ。
2013年4月1日に改正労働契約法が施行され、民間企業に無期転換ルールが導入された。同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールだが、公務員の会計年度任用職員制度は無期転換ルールに逆行する制度ではないかと思う。
まずは会計年度任用職員の待遇の大幅改善が不可欠。そして、指定管理者制度のもとで働く職員の待遇大幅アップが望まれる。高知市はとりあえず、足元の職員の「同一労働同一賃金」を実現しなければならない。