僕が農水省を担当していた1994年から95年ごろ、日本のコメ生産は1000万トンと言われていた。需要もほぼ1000万トン程度だった。24年の生産は679万トンまで下がったが、需要を上回る量が確保されている。それなのに夏から米不足となった。市場にコメがなくなり、価格が高騰した。5キロ=2000円内外だった価格は今では4000円を超えている。誰かがどこかに退蔵しなければこんなことは起きない。1993年、日本のコメは作況指数が74となり、備蓄米制度もなかったから、政府がコメの緊急輸入を行った。それが、翌年6月には「コメが湧いて出て来た」(大手卸)。新米のシーズンを前にコメを隠していた業者が放出したのだった。

日本のコメ市場はほとんど魑魅魍魎となっている。主食米は足りているはずなのに、日本はコメ輸入を余儀なくされている。1993年に合意されたGATT(関税および貿易に関する一般協定)のウルグアイ・ラウンド交渉によって導入されたミニマム・アクセスという制度によって、需要の8%をアメリカやタイなどから輸入することを約束している。30年以上前の約束を律儀に守っている。このコメは政府が一括して輸入、管理し、年間約77万トンあり、主にみそや焼酎、米菓などの加工食品用に利用される他、飼料用や海外援助用としても利用している。このコメは非課税であるが、加工用に販売される場合は、国内水準で放出されるため、農水省に入る利ザヤはとんでもなく大きい。

1995年に食糧管理法が廃止され、コメの販売は自由化され、民間によるコメ輸入を2000年に解禁し、ミニマム・アクセス米の枠外の輸入に対して、キロ=341円に設定した。関税率でいえば700%という高関税だった。関税を払えば、誰でもコメを自由に日本へ輸入出来る様にしたが、700%の関税を支払えば、タイ米でも国産米を上回り、よほどのことがないかぎり、誰も輸入しない。本当に分からない制度である。

一方で、コメ価格の内外価格差が縮小する過程で、政府はコメ輸出奨励金をつくった。新市場開拓用米(新市場開拓用の新規需要米)として認定を受けると、水田リノベーション事業で10アール当たり4万円の助成金が受けられるため、ここ数年、コメ輸出が急増している。この制度は、国内主食米とは別枠で、国内での流通は厳禁。この日本の輸出米でも、奇怪な現象が起きている。日本でコメ不足で価格が高騰しているのに、カリフォルニアの店頭で販売される日本米の価格の方が安くなっているのだ。コメに色はついていないから、輸出余力があり、国内での価格の方が有利ならば、国内流通させればいいのに、農水省は頑としてそれを許さない。

政府備蓄米は、緊急事態のため、約100万トン確保している。こども食堂・こども宅食やフードバンクへの無償提供や学校給食等に一部供給しているほか、5年経過した備蓄米は飼料用として売却される。このほかに飼料米というものもある。ブタなどの飼料として栽培されるコメはこれまた、食料用とは別枠で助成金の対象となる。備蓄米の古いコメではなく、食味も悪いわけではないから、本当に足りなくなれば、われわれの食料となってもおかしくないコメである。