11月28日、神戸市のホテルで孫文「大アジア主義」講演100年記念シンポジウムが開催され、小坂文乃・日比谷松本楼社長ら関係者が相次いで講演した。中国大阪総領事館の主催だったため、習近平国家主席による「一帯一路」の考え方に孫文の思想を重ね合わせる議論が少なくなかったのには驚いたが、最後に講演したアジア動態研究所の木村知義氏の話は興味深かった。

「最近のフォーリン・アフェアーズの記事にシンガポールの学者が面白いアンケートを行った。アセアン諸国の有識者に対して、アメリカと中国と選ばなければならないとしたら、どちらを選ぶかという質問に対して半数以上が中国を上げた。数年前、シンガポールのリー・シュエロン首相が同じことを言っていた。どちらかを選ばなければならない時期がいずれ来るはずだが、なるべく遅くしてほしいと言った」

 孫文は大アジア主義の中で「今後日本が世界文化の前途に対し、西洋覇道の鷹犬となるか、或は東洋王道の干城となるか、それは日本国民の詳密な考慮と慎重な採択にかかるものであります」と語った。アジアが西洋列強と対峙する中で、日本はアジア側についてほしいという切なる思いを打ち明けたのだ。しかし、日本はその後、覇道の道を歩み自滅した。大アジア主義は明治初期から日本の思想界にあった。右翼も左翼もない。いつ西洋列強の餌食になるかもしれないという恐怖感の中で生きていたはずだった。ある意味で西洋列強と戦うため、アジアを支配しようとしたのかもしれない。

 今でもアメリカを中心としたヨーロッパ諸国は中国の台頭を許さないという立場にある。中国が独裁国家であろうが民主主義国家であろうが、中国を中心とした世界システムの構築には真っ向から対立するであろうと思う。そんな中で日本の立ち位置を再び考えなければならない時期に来ている。石破首相の持論である日米地位協定の改定はまさにそんな視点から考えていかなければならない。

 木村氏はもう一つ面白いことを言った。「日中間には平和条約がある。不戦条約だ。一緒に戦争をするというのではない。日米間には安全保障条約があるが、平和条約はない。今必要なのは日米平和条約ではないだろうか」。まさに正論だと思った。