欧州委員会はこの10年、SUMP(Sustainable Urban Mobility Plan)

という交通政策を強化している。きっかけをつくったのはオーストリア西部のフォアアールベルグ州のラインタール地域で始まった改革である。2006年、自動車中心だったこの地域の移動手段を鉄道とバスを中心としたものに変えていこうと「2006年フォアアール・ビジョン」を策定した。公共交通機関、自転車、徒歩で暮らせる町づくりである。フォアアールベルグ州は人口41万人、面積は日本の佐賀県ほどの小さな州だが、同国の平均より多少裕福といわれるが、都市部は5-3万人程度に分散されている。68キロにわたる鉄道が通っている。20年前には各駅停車の列車が1時間に1本、特急が2時間に1本しか走っていなかった。それが現在では各駅と快速とが15分に1本走るようになった。(朝の通勤時にはさらに便数が増える)終電と始発の間には1時間ごとに普通列車を走らせている。バスは中山間地域と都市部の駅とをつなぐ重要な役割で農村部を縦横無尽に走っている。運行は15分から30分に1本は確保され、深夜でも運行されているから町で飲んでも安心して帰宅できるようになったそうなのだ。

州内すべての鉄道・バスに乗れる年間パスは5万8000円。高齢者や若者割引もある。人口の5人に1人、8万¹000人がこのパスを持っている。これに通学定期を含めると14万人、3人に1人がなんらかの公共交通のパスを持っているというから驚きだ。日本の東京や大阪の大都市では当たり前の話だろうが、たった41万人の州の話なのである。

日本でも公共交通指向型開発という発想は以前からあるが、国交省の役人たちが考える発想でしかない。ここフォアアールベルグ州では、市民、ステークホルダー、そして行政が参画した集まりで、未来の町づくりモビリティーが話し合われ、このビジョンを策定したというからうらやましい。発想の原点は町づくりにあり、そのために交通手段がどうあるべきであるかが話し合われる。公共交通が先にあるのではない。フォアアールベルグ州の鉄道・バスの年間予算は日本円にして220億円と結構な金額である。そのうち運賃収入は23%でしかない。住環境や教育など多面的な施策と位置付けているのが日本と決定的に発想が違う。運賃以外の市民の税負担は一人当たり約6000円程度。結果的に、フォアアールベルグ州のでは自動車利用率が格段に下がり、二酸化炭素排出量も大幅に減少している。

ヨーロッパでは21世紀に入って社会の在り方が大きく変化している。市民参加を促す行政手法や議会運営があちこちで始まり、連鎖反応的に拡大している。何も変わらない日本と大きな違いだ。