アメリカの長期金利の利率は4%。普通の金利に近づいている。日本は20年以上ゼロ金利が続いている。失われたものはとてつもなく大きい。金利上昇には当然メリットとデメリットがあるが、日本に金利が戻った場合のメリットについて話したい。

日銀が6月27日発表した資金循環統計(2022年第1四半期)によると、家計金融資産額は前年同期比+2.4%の2,005兆円と過去最高となった。このうち、現金・預金が1,088兆円で、全体の54%を占めている。この1000兆円だけでもアメリカ並みの4%で運用されると国民は40兆円の新たな資金を手にすることになる。まずこれは消費市場において政府がこれまで打って来たどんな経済対策より強力である。

次にこの40兆円には20%の税金がかかる。8兆円である。政府収入が8兆円増える勘定となる。年間予算規模100兆円からすれば、政府もまた巨額の財政収入を得ることになる。毎年、巨額の国債発行を余儀なくされている財務省からすれば、金利上昇はなんとか阻止したいところである。1000兆円もの累積債務を抱えているから当然の話である。しかし、金利が4%となったところで直ちに発行済み国債のすべての金利が上昇するわけではない。新発債プラス過去の国債の借り換え債の金利負担が増えるだけ。その合計が仮に100兆円あったとしても初年度の金利負担は4兆円。金利にかかる税収増の半分で済む。もちろん2年目には8兆円、3年目には12兆円となり、10年後には負担増は40兆円となってしまう。しかし、先に示した40兆円の金利収入は毎年発生する。その経済効果を考慮すれば、経済規模の拡大につながる。

忘れてはならないのが、年金の積立額である。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の直近の発表によれば、年金の運用資産は195兆円である。4%の金利で回せば、約8兆円弱の金利を生む。過去20年の利子・金利収入は45兆円弱。年間平均2兆円でしかない。8兆円と比べれば4分の1にしかすぎない。金利上昇は年金会計にとっても朗報であるはずだ。

もう一つある。90年代以降、民間への天下り先を失った霞が関は景気対策ごとに数えきれないほどの外郭団体を設立した。虎ノ門周辺にはそんな外郭団代ばかりのビルが少なくない。何十億円単位の基金はもちろん税金から支出された。当初、金利益を生み出して組織運営が支えたが、ゼロ金利以降、政府からの補助金や助成金に依存せざるを得ない体質なっている。金利収入が回復すれば、補助金や助成金の大幅削減につながる。

自民党の最大の愚策は金利ゼロ政策である。ゼロ金利はもともとは金融機関がつぶれることへの対応から始まった。早い段階で解除しておけばよかったのにそれが出来なかった背景には、巨額の財政赤字を補填する国債発行がある。ゼロ金利ならどれだけ国債を発行しても財政への負担とならない。結果的に日本国は1000兆円を超える借金をつくってしまった。

逆説的に言えば、ゼロ金利で国民は大きく富を失ったことになる。しかし、問題は日本経済の500兆円程度のGDPからどうやって40兆円の利子払いを捻出できるかということである。