円ドルの為替が1ドル=134円を下回った。135円はおろか140円すら目前となっている。この円高は国民の消費物価を確実に押し上げる。賃金が上がらず物価だけが上がることになれば、国民1人当たりのGDPがそれだけ低下することを意味する。

日本のGNPが30年間ほとんど変わっていないことは国民の知るところとなっている。賃金が上がっていないことも周知の事実だが、物価も上昇しなかったから、かろうじて国民の不満を和らげることができた。しかし物価だけが上がることになれば国民は黙っていないだろう。

問題はどこにあるのか。日本はあまりにも多くの課題を抱えてきたにもかかわらず、自民党政権はこれまで無為無策だった。安倍政権が掲げ続けたのが2%の物価上昇だった。日銀総裁に黒田東彦氏が就任してからほぼ10年になる。仮に2%が実現していれば、単利計算でも物価上昇率は20%を超えているはずだ。10年間で物価が2割上がって賃金がそのままだったら、国民は確実に暮らしていけない。この10年、企業の内部留保はほぼ100兆円積みあがっている。100兆円はほぼ年間2%の賃金上昇率の10年分を上回る。分配率という議論がある。企業の収益の何%を従業員に回すかという指標である。60-70%あれば健全な企業運営といえる。利益が上がったのだから本来は従業員の賃金アップに役立てるのが本筋であるのに、日本企業はほとんど賃金アップの努力をしてこなかったのだ。

財務省は最近、21年度の税収見通しを63.9兆円と、2年連続で過去最高を更新する発表した。このうち法人税は24.2%増の8兆1386億円と見込んでいる。喜んでいる場合ではない。ピークの1989年には19兆円あったことを忘れてはならない。今、経常利益が1兆円を超える企業が3社もある時代に8兆円の税収しかない。30年前、経常利益が1000億円を超える企業が10社内外しかなかった時代の税収が19兆円。どれだけ法人税が安くなっているかということを裏付けている。法人税率を30年前の水準に戻せば、たぶん法人税収は50兆円ぐらいにはなると推定できる。過激な議論だが、日本の財政は一気に健全化し黒字化を求める議論すらなくなるかもしれない。