アフガニスタンとパキスタンの国境にカイバル・パスという峠がある。古来、ヒンズークシ山脈のど真ん中を通る東西交易路の要である。インドを目指す西方の英雄たちはみなこの険しい峠を通る必要があった。アレキサンダー大王が通り、チンギスハンが通り、チムールが通った。インドで生まれた仏教はこの峠を通って中国に渡り、玄奘三蔵もまた仏典を求めてこの道を通った。インドは北にヒマラヤを抱えているため、インドへの道は必ずアフガニスタンを通らなければならなかった。

 アレクサンダーはアフガニスタンにギリシャ文明を持ち込み、バクトリア王国を建設したが、その後、インドやペルシャ、そしてモンゴルなどが蹂躙し、政争の地として長く平和であったことが少ない。1968年、アフガニスタンを訪れた時は、国王がいてそれなりに平和であったが、それでも国境のカイバル・パスではパシュトン族が銃を下げて暮らしていた。当時から産業らしきものはなかった。1973年に王政が崩壊し、1978年にはアフガニスタン人民民主党主導による軍事クーデターが起きて社会主義政権が誕生する。これに対抗してムジャーヒディーン運動が起き、ソ連が軍事介入、アフガニスタンの内紛が始まる。88年、ソ連が撤兵した後は、タリバンが勢力を広げ、アフガニスタンではほぼ半世紀にわたり、国内紛争が続いている。9.11以降はアメリカがアフガニスタンへの空爆を開始し、反タリバン政権を樹立させたが、内紛はかえって激化した。そのアフガニスタンから今度はアメリカが撤退する。この50年、アフガニスタンはソ連とアメリカという超大国の代理戦争を国内的に繰り返している。文明の十字路として栄えたアフガニスタンに平和の日は戻るのだろうか。