働き方改革の大きな問題

 政府が進めてきた働き方改革の柱は時短である。日本人の働きすぎを是正する政策は何十年にもわたって議論してきた。僕が労働省を担当していた1990年、つまり30年も前、日本とドイツの労働時間の実態調査を目にしてあぜんとしたことを思い出す。ドイツで超過勤務は限りなくゼロに近かったのだ。当時、日本とドイツは経済の優等生として世界経済を牽引していたのに、なぜ日本はこうも長時間労働が強いられるのだろうと疑問に思った。

 戦後の日本の賃金体系は、本給を抑えて超過勤務とボーナスに多く依存して来た。だから日本の場合、時短を進めると勤労者の手取り賃金が減るというおかしなことがおきる。日本企業の超過勤務依存症は企業側の事情と勤労者側の事情と双方にあることを前提としなければ本当の議論は進まない。

 本来ならば、生活ができる本給があれば誰も超過勤務などはしたくない。では、勤労者の本給を上げるとどうなるか。経営側からすれば、本給を上げると超過勤務の時給単価の上昇につながり負担増となる。一方で本給を上げると勤労者が支払う社会保険料の負担が上がって手取り額の減収要因となる。もちろん経営側の負担も増える。そんな賃金をめぐる問題が働き方改革を難しくしているといってよい。

 財務省の統計によると、日本の労働分配率、つまり生み出した付加価値のうちの勤労者の取り分は60%を超えていたのが、近年、50%を切っているという報道がある。かつて60%を超えていた時でも欧米と比べると日本の水準は低かった。日本企業の内部留保が400兆円に近いという統計もあるが、好業績の配分が株主配当と内部留保に流れていると考えていい。

 勤労者の所得が購買力を増してGDPに貢献するという発想が日本では欠如している。かつて自動車生産のオートメ化を進めたフォードは「労働者が買える価格の自動車を生産する」と公言してフォードを大企業に変身させた。自動車が売れて労働者の賃金が上がるという好循環をもたらしたことは歴史が証明している。

 ところが日本企業の経営者は「突出」することを好まない。賃金を含めて横並び的発想から抜け出すことができない。だから業績が上がっても賃金を上げようとしない。ここに大きな問題がある。

 配当を増やすことにはそれなりの意味がある。しかし、日本企業の場合、株式の持ち合いがあり、配当を増やしても企業の収入と消えてしまう側面もある。内部留保の場合、死に金でしかない。

 本来、通貨は流通のツールでしかない。流通量を増やすことによって景気を刺激する効果がある。だからこそ安倍政権はかつてない規模の資金を市場に供給して来た。その一方で企業が収益を市場に還流させず内部留保している。死に金を増やすということは通貨の流通スピードにブレーキをかけているに等しい。

 話を働き方改革に戻す。政府は裁量労働制の導入に積極的だ。裁量労働とは、労働の価値を時間で計れない職種は研究職ばかりでない。数多くある。成果に対して賃金を支払うという考え方だから、多少の手当をもらって裁量労働制が使用されれば逆に長時間労働につながりかねないのだ。これは経営側の要求であり、勤労者の要求ではない。

 長時間労働の一番の原因は「ホーレンソー」なのだと思っている。報告・連絡・相談。企業でも役所でも上司はみな部下の行動を把握したがり、逐一、報告を求める。その報告が口頭ですむなら簡単であるが、記録に残すために文書による報告を求めることがほとんど。しかもしの報告書の書き直しなどを命じられると時間はいくらあっても足りない。

 かつて現場記者だった時代、よく記事の書き直しを求められた。勤務時間内に記事は出来上がっているのに、デスクはまだ記事をみていてくれない。そうなると超過勤務時間帯に入る。やがてデスクから連絡があって「文章になっていない。書き直し」と命じられる。書き直しで、デスクとのやり取りが終わって記事ができ上がるまで数時間。待ち時間も含めて記者は「過分の超過勤務手当」を頂戴することになる。出来の悪い記者ほど超過勤務手当が増えるというおかしなことが起きるのだ。もちろん「ホーレンソー」がサラリーマンの要諦であることも教えられた。

 有能な上司、つまり部下の掌握術にたけた上司ほど「ホーレンソー」を求めない。ホーレンソーの必要性が減少すれば、日本の勤労者の働き方は格段に改革される。

 勤労者の時短が成功すれば、勤労者の手取り収入減を意味し、購買力の減少につながることは間違いない。日本経済の縮小につながり、日銀が目指す2%の物価上昇どころではなくなるのだ。

伴武澄 について

新聞記者を定年退職後、高知市へ帰り、旧鏡村でシイタケとクレソンを栽培しながら、はりまや橋商店街で毎週金曜日に露天を商い、その夜に「夜学会」を開催するスーパーおじいさん。
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