欧州債務危機の震源地だったギリシャでは、「トロイカ」による財政再建プログラムが相次いで要求され、大規模な民営化要求の中にアテネとテッサロニキの水道公社が入っていた。

 テッサロニキの水道事業は、50万人の住民に対して順調な経営を続けていた。フランスのスエズが5%出資しているが、ある日、スエズの人が設備などを調べに来た。「ここの水はこんなに安いのか」と感想をもらしたそうだ。

 2013年2月、フランスのオランド大統領がやってきて「民営化はギリシャの人々の選択で、欧州が推奨したことでもある。フランス企業はいかなるセクターにも出資する用意がある」とギリシャへの投資拡大に意欲を示した。フランスはパリなど約90の自治体が水道事業の再民営化がなされたばかりだった。自らの失敗の損失を南の国で取り戻そうとしたのである。

 危機感を持った市民は、ベルリンの住民投票やイタリアの国民投票を見習って、水道民営化の是非と問う住民投票を計画した。

 これに対して閣僚の一人が、「学校に投票箱を置いてはならない。住民投票は違法である」など圧力をかける書簡を送ったのだ。

 それでも住民投票は2014年5月に行われ、98%の投票者が「non」を突き付けたのだった。2015年にギリシャでは左派政権が誕生するが、トロイカからの圧力は減じていない。  2017年9月、マクロン大統領がギリシャを訪問し、ギリシャの民営化プログラムに関心を示す40人もの企業家を引き連れていた。その中にスエズのCEOの顔もあった。ギリシャの左派政権は、トロイカの圧力と国民の民営化反対の声の板挟みで苦悩が続いている。 (「最後の一滴まで」から、文責:伴武澄)