刃物で土佐から欧州に切り込む穂岐山
土佐の高知の刃物を馬鹿にしてはいけない。土佐山田の穂岐山刃物を取材した。世界を驚かせた京セラのセラミックス包丁の研磨を一手に引き受けるなど黒子に徹してきた企業で、独自のセラミック焼成技術を完成、美しい文様を生み出すダマスカスナイフの市場投入、宇宙技術で使われた表面処理技術を導入した切れ味の持続する包丁など世界に発信する新機軸を相次いで打ち出している。
穂岐山刃物がある旧土佐山田町は500年の伝統を持つ土佐打刃物の産地。穂岐山は大正8年、刃物問屋として創業した。昭和になって、地場の農機メーカー向けに農作業用刃物を納入、さらに家庭用包丁、大工道具などに業容を拡大した。昭和50年代からロール鍛造を導入し、大手商社と組んでベトナムの復興援助などで業容を拡大した。ハンマーでたたくという旧来の刃物づくりを脱し、円筒形の金型と通過させる鍛造技術を応用したことが刃物の大量生産につながった。
昭和61年、セラミック包丁の分野に進出したのも大きなエポックとなった。研磨が難しいとされたその分野で急成長、品質基準の厳しい京セラに納入したこと が市場での信頼獲得の礎になった。長年続く地場の金属加工の技術に次々と新素材のノウハウを蓄積しながら新しい挑戦を続けている。
社長の穂岐山信介は、平成2年、フランスの田舎町で自社のセラミック包丁が店頭に並んでいるのをみて感動した。しかし、当時はセラミック包丁といえども京セラの下請けに すぎなかった。その後、京セラからセラミック素材の提供停止という逆境がバネとなった。自前でセラミックの焼成技術の開発に着手し、同時に刃に文様が浮き 出るダマスカスナイフの製造が始まった。
土佐刃物に「ハマグリ刃」という独自技術がある。刃に膨らみをもたせた形状で切れ味がいいことで定評が ある。ダマスカスは日本ではブレイクしていないが、木目のような風合いを持ち、アウトドア分野でヨーロッパでは人気の高い刃物。鋼材を重ねていかに面白い 文様を出すかが課題となった。
新製品「SAKON+」は宇宙開発にも使われている高度な表面処理技術を採用。「使うほどに研げる」「刃が生え変わる」といったこれまでにない切れ味の持続性を達成した。
また、刃物やナイフの本場、ヨーロッパで浸透するにはデザイン性が問われる。このため、トヨタの高級車「レクサス」のステアリングに採用された木工加工技術で、木材に樹脂を含浸させた素材を包丁の柄(ハンドル)に導入した。
新製品「SAKON+」は英国の国際的切れ味試験機関”CATRA”で「切れ味」「切れ味の持続性」でダントツの評価を得ている。さらに、徳島に本拠を置 くデザイン会社、山分のコラボレーションで生まれた高級感のあるパッケージは、穂岐山の商品力を総合的に高める効果をもたらしている。
現在、同社の包丁やナイフの販路は百貨店や専門店が中心だが、刃物の国内市場が縮小していく中で海外市場に力を入れていく方針。「これまで刃物はヨーロッパ勢が世 界市場を制していたが、日本食文化の普及とともに日本の包丁が高く評価されつつある」(穂岐山社長)。すでにアメリカはプロ向け市場が中心で、セラミック スやダマスカスはヨーロッパに依存している。穂岐山社長は「現在、輸出のシェアは2割程度だが、これを5割にまで引き上げたい」とし、内外の市場開拓を通 じて土佐打刃物のブランド化と穂岐山ブランドのさらなる高みを目指している。
◆経営者の一言
一番当たり前な包丁を作り 続けていくことは大切なこと。職人さんがどんどん引退していくが、世界中で刃物の完全オートメ化はない。物づくりは人に支えられている。中小機構の支援を 得て大きかったのは人材の広がり。違う分野のメーカーや流通業が同じテーマで意見交換できるのは有益だ。