例年にない暑さですが、なんだか慌ただしい夏を過ごしています。そういえば3年前の夏も厳しいものでした。この時虚血性脳梗塞というのをやりましたが、早い話熱中症の酷いものでした。ストレスと睡眠不足と水分欠乏で簡単に人体はいかれてしまいます。取分けこの夏は友人知人にアクシデントが多いようで、これも直接間接暑さと疲労に無関係ではないかもしれません。くれぐれも健康管理にはご留意くださいね。
 いきなり脳梗塞からのスタートで恐縮です。最近気のせいかもしれませんがメディアで「一つの時代の終わりと始まりが同時に来ている」といった趣旨の発信を数多く見かけるような気がします。参院選の影響もあるかもしれません。経済成長と脱原発依存をトレード・オフの関係に仕立て上げて「さぁどっち?」というような構図で有権者に迫る論旨もよく目にしますが、これはどうもいただけません。
 有権者を小馬鹿にしています。対立軸を鮮明化、シンプル化して票を稼ぐというやり方は古くはヒトラーから小泉さんまで、選挙上手といわれた人の常套手段として多用されてきました。ヒトラーと並び立てるのは小泉さんには失礼と思うし小泉政権が果たした役割に功績も少なくない気がします。でもこれをやっちゃお仕舞いです。黙して一切を語らぬ小泉さんですが、口を割らせれば、新たな時代のためには壊さねばならぬものあり、終わりの始まりにはそれなりのやり口が必要なんだと云うようなことを吐くのかなと勝手に想像していますがどうでしょうか。今を生きる私たちはこの時代をたまたま経験しているわけです。世界唯一の被爆体験国、日本に生を受け今また広島、長崎に続き福島の核汚染も被ることとなりました。世界に類を見ない国です。見方を変えれば、私たちはこの国の将来を託されたいわば選ばれた人々として生きる覚悟が必要なのではないでしょうか。
 関係ないけれど、昨夜NHKのニュースをつけたら宮崎駿監督の特集が組まれロング・インタビューをやっていました。今回封切られる「風立ちぬ」の番組宣伝も兼ねた企画でしょうが、数々の心に残るメッセージがそこにはありました。そして彼もまた終わりと始まりを口にしていました。「今の時代にバブルの頃のようなファンタジーを創るわけに行かないでしょう。製作途中に311が来て止めようかという話もありました。私たちの仕事は時代とともにあるのです。この作品もまた私のものの一つです。新しい時代のファンタジーはもう私ではないかも知れませんが、この先また出来ることを祈ってます」と。
「今回のリアリティを基調とした作品は遺作とも言われていますが・・?」との問いに答えてのものでした。
 先日講演会を聴きに行った姜尚中先生にもじんわりと、しかし確実に心に響くボディブローを打たれました。冷めた目と温かい心を具有する先生の著作にはなるべく目を通すようにしていますが何せマルチタレントの故か、カテゴリーで括ることのできない作品群に目眩ましにあったみたいで、肝心要の先生のご専門の政治思想史の著作を読んだことがないことに気づきました。講演は題して「北東アジア共同の家の虚妄に賭ける」物静かな語り口の後ろにある信念と表現していいのか、焔のように燃え立つもの。それは韓国の辿った歴史を引き継ぐものとして、在日韓国人として、敬虔なクリスチャンとして、さらに3年間の独留学を通じて行きついたキリスト的人道主義を通して…溶け合わないそれぞれの軸が縒り合さった同軸ケーブルのような強さに感銘を受けました。この強さこそ日本に必要なのではと感じました。因みに「虚妄に賭ける」という言葉は終戦直後に丸山真男が著した「大日本帝国の実在より戦後民主主義の虚妄に賭ける」から借用したものだそうです。それは満州事変の頃1930年代の流れに酷似する現在の日本で、メディアも含めて幻想の誹りも受けかねない状況下、北東アジアの連帯を考えようというチャレンジャブルな講演でした。
 そんなこの夏の極め付けが大阪のお好み焼き屋さん「千房」の中井政嗣社長でした。ご縁というか複数のルートが収れんするように中井社長さんとお会いすることとなりました。中井さんは古くから受刑者や少年院出身の若者たちの就労支援に情熱を注いでおられます。勿論、殺人や性犯罪、覚せい剤中毒といった事案の受刑者は除外です。家庭の問題や環境要因で若くして悪に染まった若者たちは一旦烙印が押されるとなかなか再起の道は険しいとのことです。刑務所や裁判所も更生の道に努力されていますが、引き受け手がなければ徒労に終わってしまいます。成績優秀な連中とはいえ度胸と胆力が問われます。信頼が何よりの力なのか事故は少なく立派に社会復帰を果たしている若者が少なくないようです。
 中小企業が多いせいか即断即決のディシジョンが必要とされるこのプロジェクトは関西が先行しています。大企業の組織人が多い首都圏では中々根付かないというお話を伺い関東方面のお世話をお引き受けしました。中井さんの意気に感じた方も少なくなかったと思います。日本財団の正式プロジェクトも発足し、引き受けてくださる企業には月8万円を半年間助成頂けることになっています。しかし思いつきで軽々にできる仕事ではありません。中井さんは初めから受刑者本人、引き受け先従業員、顧客のすべてに情報をオープンにすることを条件にされています。先日首都圏で事前説明会が開かれましたが5~10名の小さな企業の社長さんからお引き受けしたいと8名の方々に賛同いただけました。
 茹だるような灼熱地獄のこの夏、そんなことでいつになく濃密な人との出会いがありました。311以降たしかに日本は変わりつつあります。筋肉質の発言する若者も少しづつ増えているような気もします。この人になら騙されても本望と思う人との出会いが印象的な夏になったみたいです。人間65歳も越え相応の鑑識眼は養ってきたという自負もあります。でもこの人に賭けてみたいと思わせるのは相手の人徳です。それでも間違っていたら、それはもうこの夏の暑さのせいでしょう。