探検家の植村直己は北極圏探検を幾度かしているが、犬ぞりには苦労したらしい。彼が特訓を受けたアラスカは犬の隊形が2頭縦列であった。ところが北極縦断の基地としたのはグリーンランドだった。そこでは全ての犬が一本のロープにパラシュート状に結ばれ、まるで勝手が違った。同じイヌイットでもアラスカからグリーンランドに渡った部族でこんなにも違うのかと探検記にある。
 犬のコントロール法がまるで違うらしい。アラスカ型ではリーダー犬を先頭に配して、御者役の人間はリーダー犬とコミュニケートする。グリーンランド型はリーダーはあくまで御者で、リーダー犬はいるものの御者が全体を指揮する。しかも一頭、紐の短い犬を配置してこの犬の役目は鞭を当てられ悲鳴を上げる役割。ヒィヒィキャンキャン泣きわめき全員に緊張感を走らせる。だから声の大きいデリケートなのが選ばれる。泣き犬である。こういう仕事の仕方をする人も泣き犬を命じられた人もこれまでに会社生活で何例も見てきた。でもどうもこれには馴染めない。やはりアジア型の仕事は、人の場合もパラシュート型でなく縦列型なのだろうか。縦列型はリーダー犬が弱いと付和雷同で迷走するらしい。
 先日のサッカーW杯出場を決めた日豪戦直後の記者会見。席上、本田圭佑選手の発言は見事だった。「各人もっと『個』が強くならないと!僕たち、チームワークは生まれつきの能力として持っているわけで、その上でさらに各々が個を強く高めていかないとブラジルでは勝てない」と危機感一杯に語った。日ごろ国際絡みの仕事をしている人たちはハタと膝を打ったことだろう。そうなのだ!和を尊しとして協調性に富む国柄は十分みんな分かっている、でもそれだけでは世界で戦っていけないのです。この辺りをNHKのニュース9で池上彰さんが解説していた。わざわざ池上さんがゲスト出演して解説するほど、本田発言はアベノミクスの安部ちゃん発言なんかより数段インパクトがあった。
 翌日のメディアは一様に「会場が凍りついた・・」、「チームの和を乱す発言」、「先輩を名指し批判」とか面白おかしく書きたてていたが、いつものことで本田選手はこのような反応も百も承知で一石を投じたに違いない。NHKがニュース9で取り上げたのもある意味、発言の意図するところがサッカーに止まらぬものだったからだと思う。それにつけてもマスコミ諸氏の相も変らぬことよ。その方が売れるのかも知らないが、「なかよしくらぶ」を払拭して「個」を強化せねばならぬのはマスコミの方ではないだろうか。