尖閣諸島をめぐって日中はいよいよ厳しい局面に立たされている。尖閣は日本人の誰もが知っている名称だが、実は誰も見たこともない島である。中国にとっては10年前には存在どころか名称すら知らなかった島である。そんなちっぽけな島をめぐって日中が極度に対立している。日本が国有化したばかりに中国側がかみついた、かみつくどころでない。国家海洋局の海洋監視船がほぼ毎日、その海域に出没して日本側を挑発しているのである。
 火花はまだ散ってはいないが、日中戦争の発端となった80年前の盧溝橋のようにどちらかの陣営が一発の銃砲を発するだけで何が起きるか分からないほどにまで緊張感が増しているのだ。戦後68年、日本は平和を守ってきたが、いまになってそんな危機に直面している。どうしたら危機を回避できるか。63年前にアルザスの鉄と石炭の国際管理を提唱したシューマン・プランに大きなヒントがあるといわざるを得ない。
 安倍自民党政権はTPPの交渉参加を決めた。かねてよりTPPはアジア太平洋といいながら中国を排除した経済ブロック形成を目指している点で、アジアの平和に対する脅威となると考えている。第一次大戦で平和を希求した国際連盟が出来たが、軍縮をめぐって対立し、経済恐慌の後は世界がブロック経済に分断された。20年ほど前にウルグアイラウンドが成立し、世界貿易機関が誕生した。そのウルグアイラウンドを強力に推進したアメリカが今度は〝ブロック経済〟を志向しているといわざるを得ない。
 アメリカという国家は20世紀に独占禁止法という新たな概念を経済にもたらした点で敬意を表していた。企業が大きくなりすぎると人々に禍をもたらすという健全な発想があった。しかし、21世紀の世界経済は企業が国家を乗り越える経営をするようになり、多国籍企業が国家を動かす時代となってきている。企業が利潤を求めて国家間を移動するようになる結果、人々の生活が脅かされるようになった。国家に栄枯盛衰があるとはいえ、企業だけが生き延び、国民が衰退する経済がまっとうだとは思えない。