土佐山日記24 コオロギラン
12日は横倉山フィールドワークだった。植物は多少興味があるが、岩石はまったく未知の分野だ。高知県は地質学的に非常に興味深い土地柄なのだそうで、4億年も昔に南半球にあった大陸が移動して隆起し、横倉山周辺の表層に突き出ているというのだ。だから日本最古の植物化石の産地ともなっている。かつてナウマン博士も来日したおりにこの地を踏査した。
案内してくれた安井敏夫学芸員はいかにも楽しそうに「4億年」を繰り返す。「ハワイ諸島は西に移動していて7000万年経つと日本列島とくっつきます」と言われた時は、なにやら嬉しくなったが、「7000年じゃなくて万年ね」とダメを押された。
考えてみれば7000万年前に人類は存在しなかったから、日本もハワイもへったくれもない。7000年前だってエジプトも黄河文明もない。土佐山アカデミーは100年先を標榜しているが、地質学の範疇では100年など瞬間にもならないのかもしれない。安井さんはそんなことはおくびにも出さず、ニコニコと楽しげに地球の歴史を語ってくれた。
横倉山は伝承として安徳天皇陵墓が整備されていることで知る人ぞ知る土地なのだが、最大の宝は「コオロギラン」という植物。希少植物としては超一流なのだそうだ。牧野富太郎博士が命名したそのコオロギランがちょうど「開花」しているというのだから運が良かった。
横倉山の中腹はアカガシの原生林が続く。巨木だ。倒れて腐りつつあるアカガシもある。足下の腐葉土はフワフワしていて絨毯のようなところもある。やがて杉原神社に到着、ちょうど弁当の時間となった。満腹になったころ、安井さんが「ここらあたりにコオロギランが多く咲いています」と言った。
探してもそれらしき花はない。「小さいですから根元をよく探して下さい」。安井さんの声がした。誰かが「これちゃうかな」といって杉林の根元の腐葉土の上に生えた数センチの物体を示した。なるほどよく見るとコオロギが羽を伸ばしたような花がいくつか点在していた。
あちこちで「オー」という歓声が上がった。僕たちが見つけたコオロギランがそこに群生していた。