土佐山日記22 育てる風土
9・11から11年。同時に3・11から1年半の今日。東日本大震災関連ニュースは盛り沢山だったが、ニューヨーク同時多発テロに関するニュースは例年になく少なかった。3・11は風化したのだろうか。
今日の土佐山アカデミーは、病児保育のNPOであるフローレンスの岡本佳美さんの「伝える力」に関する講義。フローレンスをどうブランディングしてきたか興味深い報告があった。岡本さんは昨日から、ご主人と赤ちゃんを連れて土佐山にやってきた。昼食をはさんでほぼまる1日するどい問答が続いて非常に刺激を受けた。
質疑応答で岡本さんに質問した。
「土佐山の人にアカデミーって何をしているのとよく聞かれる。答えるのが難しい。ブランディングを生業としている立場から何と答えたらいいのでしょうか」
岡本さんはしばらく考えてこう言った。
「土佐山に村民憲章ってあったでしょう。土佐山にはそもそも人を育てる風土がある。そのコンセプトは輸出できる。そのできることを村の人に理解してもらうことがアカデミーの使命なんではないでしょうか。アカデミーのスタッフも受講生もそれをどう形にしてみせるかを目指すべきなのです」
「NPOってわれわれフローレンスのように問題解決型と価値創造型がある。前者は目の前に見える課題があるが、後者は見えない。だから難しいと思われがちだが、私はそうは思わない。価値創造型には潜在的課題があるでしょ。気づいていない人にとっては大きなお世話になるが、気づいてもらうためのアプローチが重要となると思う」
「土の人、風の人ってあるでしょ。ただ台風のような風では荒らされるだけだが、本来、土の人には風の人が必要なの。外から違う価値観を持ち込んでくれるのは風の人。何を置いていき、何を担うのか重要だ」
もう一つ質問した。
「先ほどの講義で『未来と他人を理解するのにデータは必要ない』と言った。僕も同感だ。最近、20年先、30年先の話が多く語られる。特に社会保障の分野はそうだ。長年、記者をやってきたが20年前に語られた将来像と現在はまったく違っている。10年先だって分からないのに」
「企業は5年計画、10年計画を公表するが、アナリストたちもまともに受け止めていない。将来の夢を語ることは必要だが、あくまで夢の話。フローレンスでは3年以上の経営計画は立てないことにしている。なぜか。それはムダだからだ」
「ドイツのメルケル首相が脱原発を決めるに当たってデータに頼らなかった。宗教者や哲学者などによる倫理委員会を招集して参考にしたのを知っていますか」
そもそも僕が土佐山アカデミーにやってきたのは「おもしろそうだ」という興味本位だった。自分の余生をどう生きるか考える場が誕生したという意識でしかない。土佐山をどうするかという課題は村の人々が考えるべき問題であって、本来的には外部の人が口をはさむのは「余計なお世話」なのだ。
そうはいっても、この魅力的な山村がこのまま衰退するのを見て見ぬ振りはできない。この2カ月半、自分の中にそんな問答を繰り返してきた。モノ中心の町おこしばかりが叫ばれる中で「学舎」を標榜するアカデミーはユニークであるに違いない。
岡本さんがいうように「憲章」にある「学び」とアカデミーの発想は同じベクトル上にある。