羽田空港は梅雨空。
 東京で、マイケル・サンデル『それをお金で買いますか』を読了した。題名の割にはそんなにショッキングの内容ではなかったが、一つ学んだ部分がある。第三章「いかにして市場は道徳を締め出すか」の中で、スイスでの核廃棄物処理場問題について興味深い記述があった。
 多くのコミュニティーが核廃棄物の貯蔵に反対する中で、スイス中央部のヴォルフェンシーセンという小さな山村(約2100人)が住民投票を行う前に数名の経済学者が意識調査をした。「連邦政府がこの村に核廃棄物の処理場を建設すると決定したら、受け入れに賛成票を入れるかどうか」を聞いた。
 驚くべきことにぎりぎりとはいえ51%の住民が賛成すると答えたというのだ。さらに面白いのは次の段だった。
 続いて質問したのは「もし連邦政府が核廃棄物処理場の建設に併せて住民に毎年補償金を支払うと申し出たらどうするか」と問うたところ。今度は賛成票が25%に減ったというのだ。しかも補助金は一人当たり年間8700ドルにものぼる金額だ。補償金の金額を増額してもその結果は変わらなかったというのだから面白い。
 調査した経済学者ブルーノ・フライとフェリックス・オーバフォルツァー=ギーは「共通善への貢献を含む道徳的配慮によって、ときとして価格効果が打ち消される場合がある」と指摘しているという。
 スイスという国家が原発を選んでしまったことに「どこかが犠牲にならなければならない。もし国家が求めるなら・・・」という村人の矜持なのだろう。お金で解決できないことがあることをスイスの村民が示した例であろう。
 【参考】財団法人原子力研究バックエンド推進センターの「RANDECニュース」2006年1月号No.67に下記のような記述があった。
  1994年にヴェレンペルグの属するコミュニティ「ヴォルフェンシーセン」で行われた住民投票では、建設及び操業の実施会社(GNW)を受け入れることに対して63%の賛成が得られた。また、処分場としての土地利府計画に対しては71%の賛成が得られた。