むかし他社の先輩記者に聞いた話である。
「入社したばかりのころデスクからお前いつになったら記事書くんだっていわれたんだよ。『毎日、毎日、書いているじゃないですか』って言い返したら、「発表ものは記事じゃない」って言われてぐうの音も出なかったんだ」
 昨年8月、請われて関西のある大学のジャーナリスト講座で授業をしたとき、「ジャーナリストなんて偉そうなことをいっているが、記事の95%は発表ものだ。残りの数%も発表を予定している内容を数日早く書いただけで、世の中でスクープと評価されているが、観音様の手のひらの孫悟空を演じているに過ぎない」と話した。記者として34年を終えた実感だった。
 授業が終わって担当教授から「あんまりですよ。ジャーナリストを目指している若者が失望するじゃないですか」と強い口調で講義された。定年後に大学の先生も悪くないと思っていたが、「これじゃ、大学の先生にもなれないな」と実感した。