日本のマーケットでいつも不思議に思うのは、世界のトップランキングの製品がほとんど見られないということである。タバコのフィリップモリス、トイレタリーのP&Gぐらいで、おもちゃのトイズラス、大手スーパーのカルフールも鳴り物入りで進出したが、いまは見る影もない。円高差益還元ブームで輸入ビールが売れた時期もあるが、国産の発泡酒や第3のビールに市場を奪回されてしまった。
 90年代に外資が進出する障壁はほとんどないと思われるほどに改革が進んだにも関わらず、消費者のマインドには異常とのいえるほどの国産信仰があるのは 事実。1ドル=70円台の円高になっているのに流通業界が「差益還元」の旗を振る様子もみられない。国産品へのマインドコントロールがどこからか発信され ているのではないかと勘ぐってしまいたくなるほどである。
 大手家電販売店で世界のトップを走るサムソンやLGの薄型テレビは皆無、世界 第4位のメーカーに成長したヒョンダイ自動車に到っては販売店すらない。かつては日本市場の開拓を目指したが、数年前に撤退してしまったのだ。世界第5位 の販売台数を誇り、日産・ルノーグループに肉薄している自動車メーカーの存在感がゼロということには、日本人の意識に大いに問題があるといわざるを得な い。

順位(昨年)自動車メーカー国籍販売台数e
1(2)GM米国903 万台
2(3)VW独国816 万台
3(1)トヨタ自動車日本795 万台
4(4)日産・ルノー日仏739 万台
5(5)現代自動車韓国660 万台
6(6)フォード米国570 万台
7(7)フィアット・クライスラー伊米389 万台
8(8)プジョー・シトロエン仏国355 万台
9(9)ホンダ日本310 万台
10(10)スズキ日本250 万台

※日経新聞(2012年2月4日7面)

 日米が貿易問題で激しく応酬していた約20年前、在日アメリカ大使館の担当官が言った ことが忘れられない。「アメリカは日本製品を問題とするのは市場を席巻しているからだ、繊維から始まってテレビ、半導体、自動車・・・、アメリカの業界は 20%ぐらいまでは黙っているが、それを超えると問題視するのだ。それにひきかえ日本で20%のシェアがある外国製品ってありますか?」

  世界70億人が受け入れている商品が日本だけで受け入れられていない。どこに問題があるのだろうか。その結果として、為替水準だけはどんどん切りあがって いく。日本の企業は20年来、「限界」という言葉は発してきたが、その度に為替の壁を乗り越えてきてしまった。逆にもう少し市場を開放していれば昨今のよ うな極端な円高を防げたのではないかと考えるのだ。

 日本企業のガラパゴス化が叫ばれて久しいが、それは製造業のみにかぎったことではな く、消費者を含めた流通業においても顕著なのであることを自覚する必要がある。先月、東京大学が秋入学構想を打ち出して話題を呼んだが、コメ市場開放のと きに叫ばれた「一粒たりとも輸入させない」という国民的な国産信仰に大きな問題をはらんでいるといいたい。

 このコラムを書いているとき に朝刊に眼を通したら、日経新聞が「国産神話脱却に活路」という連載企画記事が掲載されていた。九州日産が韓国から多くの部品を購入し始めたことが紹介さ れていた。日産自動車はすでに大衆車マーチの製造を全面的にタイに移管している。自動車産業は裾野の広い産業といわれるが、すべての部品が日本で作られる 時代は終わっていると自覚しなければならない。