東日本大震災のための第三次補正予算が国会を通過し、復興債の償還期間を25年とすることで与野党合意した。TPP参加は曲折を経たが野田佳彦首相が大勢の慎重論を押し切ってハワイでのAPECで参加表明した。
 この1週間、相次いで国家の重要政策が決まっていった。野田首相の手腕ではない。官僚の手際である。政治の社会に再び財務省ペースが復活した感がある。このまま行くと、12月の予算編成に向けて消費税増税を含めた税制改正の過密スケジュールになだれ込んで行くような雲行きにたってきた。恐ろしいことだ。
 思い出すのは11月から年末にかけての次年度予算の編成である。新政策を検討する各種審議会の報告が次々と出され、省庁はそれを「大綱」という形で政策化する。圧巻は自民党税調と政府税調のハーモニーである。これも相次いで発表となる。次年度の税制大綱が決まると、予算編成が本格化する。
 本格化といっても財務省が原案を発表した後、復活折衝(局長級、次官級、閣僚級)が3日ほどあって政府原案の発表とあいなる。その間、経済部の記者はそれこそ寝る間がない。というより考える間がない。
 意図的かどうか分からないが、日替わりに次から次へと重要ニュース、つまり一面トップの記事書いた経験からすると、当時の大蔵省の陰謀としか思えないスケジュールなのだ。
 霞ヶ関の官僚はこの予算編成というゴールに向け大蔵省が書いたスケジュールに乗って、4月からベルトコンベア的作業を強いられる。マスコミもその被害者だし、考えようによっては政治かも被害者なのかもしれない。
 このベルトコンベアを動かす潤滑油の役割を果たすのが官僚による「ご説明」である。主に政治家に向けたものだが、大物記者にも「ご説明」部隊はやってくる。だいたいが課長クラスである。よもやま話から始まって、なぜこの政策が必要かということをてきぱきと説明する。
 大方の政治家や新聞記者はまず霞ヶ関の幹部がわざわざ自分一人だけのために足を運んでくれることに感動する。背景説明の中に公表されていない情報でもあれば、なにやら仲間になったような気にさせられる。ここらの心のくすぐり方が巧妙である。
 筆者はこれを官僚によるフォーマットと呼んで来た。一度思考パターンが財務省的になるとなかなかこれから抜け出せない。そもそも多くの政治家や記者は系統的に政策を考えるなどということには慣れていないから、ご説明を受けると自分が異次元にワープしたような気になる。つまり頭がよくなった気分にさせられるのだ。