10月から復活したタクシー業者保護
10月1日から「タクシー適正化・活性化法」が施行され、タクシー行政は自由化から「規制強化」を180度転換した。民主党政権になったものの、実はこの法案は与野党一致、全会一致で国会を通過したしろものなのだ。初乗り運賃がほとんど710円の東京ではほとんど話題になっていないが、筆者は京都でMKタクシーに乗って「MK新聞」読んでいて、「おーそうだった」とあらためてこの規制強化策を思い出した。
京都や大阪のタクシーは2002年の規制緩和以降大いに運賃が下がった。もともとMKタクシーは低料金で営業していたが、初乗り580円に合わせる業者が増え、MKより10円安い業者やワンコインつまり500円で乗れるタクシーまで現れた。「深夜割り増しなし」「5000円以上は半額」など多彩な運賃体系が生まれた。
拝啓 国土交通大臣 前原誠司殿 MKは今の運賃を守り続けます
http://www.mk-group.co.jp/np/index.html
今回の「適正化法」は法律名のごとく「これまでが適正でなかった」というお上の意思を如実に示している。消費者からすれば「値上げ法」にしか思えないのだが、お上の意思は「競争はけしからん」ということらしい。
MK新聞によれば、京都の場合、認められる初乗り運賃の幅は640-620円となった。これまでは640-570円だったからMKのように620円未満の業者に対しては厳しい監査と査定が待っている。
運賃だけでない。「適正化法」は業者に「減車」も求めている。自主的に減車に応じない業者には「・・・・・・・・」というお上の意思が以心伝心で伝わっているから、早くも減車に応じる業者が出始めている。
「適正化法」の正式名称は「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」という。「特定地域」というのがくせもと。簡単に言えば、競争激化で業界が疲弊した地域ということになるが、全国141地域、ほとんど日本列島が対象となったに等しい。営業地域は643もあるのだが、過疎の地域にはそもそもタクシーなどほとんど走っていないのである。
もともと規制緩和は自己責任制である。値下げも増車も自由にして消費者の利便を図ろうというのが目的だった。90年代のキーワードは業界保護から消費者重視だったはずである。それが今回は業界保護に与野党の意見が一致したのだからけしからんではないか。
景気後退は背景に、この10年間企業も官庁もタクシーの使用を厳しく制限した。サラリーマンの収入も約2割減少している。それだけでタクシー業界は当然苦しくなるはずだった。
値下げと増車がそれに拍車をかけたことは事実だろうが、企業もも個人もタクシーに乗らなくなったのが、タクシー業界疲弊の一番の原因であるはずだ。タクシー運賃料金や増車に圧力をかけたところでタクシー客が戻るとは考えられない。
こういう時期に運賃値上げをすれば顧客はさらに減少することは目に見えている。 2007年、東京の初乗りは710年に値上げされた。結果、大幅な売り上げ減に陥っている。MKタクシーは「いまの運賃(初乗り580円)を守り続けます」と宣言している。エムケイ株式会社はこれまでも国土交通省とことごとく対峙してきた。何度も運賃値下げで煮え湯を飲まされてきた。
クロネコヤマトを創業した故小倉昌男さんがあれほど運輸省と闘ってくれたおかげで今の宅配便がある。孫正義さんのヤフーBBがなかったら、現在の日本のブロードバンド普及はなかったはずである。規制により旧体制を保護してきた80年代の日本に戻してはならない。タクシー業界保護の特例措置は法律通り「3年」で廃止するべきである。(伴 武澄)