日本は世界に冠たるビール高税率国家だった。明治時代に導入されたビールは嗜好品ということで、アルコール濃度に比べてすこぶる高い税率になった。「アルコール度数に比例した税率を」というビール業界の要請はあるにはあったが、各地に点在する無数の造り酒屋の発言力でこの一世紀、ビールの税率低減は果たされることがなかった。
 理由は簡単である。政治がもたらした結果である。明治時代は15円以上の国税納税者にしか投票権はなかった。造り酒屋は各地で有数の納税者であった。戦後は、造り酒屋が自民党政権を支えてきたから、ほとんどの自民党議員が自民党税調でビール課税の是正に消極的だった。
 高いビール税制がもたらした歪みはハンパでない。ビールは酒税法上、原料の3分の2以上が麦芽でなければならないと規定されている。1990年代初めにサントリーが「ホップス」という第2のビールを発売してビールの価格戦争が起こった。「ホップス」は麦芽の量を3分の2以下に抑えてあり、発泡酒という分類で販売した。結果は消費者の圧倒的支持を集めた。
 2002年12月11日 規制緩和の寵児「発泡酒」増税という愚策
 2000年12月07日 発泡酒増税でなくなりかけたビールという酒類
 発泡酒があまりに売れるので、ビール税収が激減した。自民党や大蔵省は「同じ味なのに税率が違うのは不公平だ」と発泡酒の増税に踏み切った。結果起こったことは第3ビールの誕生だった。発泡酒の出現と質的に違ったのは、原料を「大豆」に転換したことだった。日本の酒造技術がすばらしいのは「大豆」を原料にしてビールと変らない味をつくりだしたことだ。
 「大豆」からつくる酒はもはや「ビール」とは名乗れないなずなのに、世間では「第3のビール」といって大いに歓迎した。ビールの場合、高酒税がことの発端だった。その歪みが是正されないから、業界がやむなく次々と”脱法”を図った。実は発泡酒が誕生した背景にはもう一つの大きな要因があった。90年代の円高で輸入ビールが急増した。この輸入ビールに対抗するために開発されたと考えたほうが正しいのかもしれない。
 いずれにせよ、高ビール税のおかげで自民党政権化の日本ではビールという概念が消滅しかねない状況にあった。なにしろ市場の半分以上が「まがいもの」になってしまっているのだから。
 鳩山由紀夫首相は10月8日、政府税制調査会を開催して、所得税を柱とした税制の抜本見直しを諮問した。酒税については「アルコール度数に応じた課税に見直す方向」であるらしい。ということはビール税はどんなことがあっても減税対象となる。逆にこれまで”貧者の酒”として優遇されてきた焼酎の増税は免れ得ない。増減税ニュートラルとすれば、日本酒もウイスキーも増税となるだろう。
 新しい政府税調にはぜひビール課税を国際水準にまで下げて欲しい。ビール税が国際水準にまで下がれば、たちどころに第2、第3のビールは市場から姿を消すだろう。なにしろビールの原料費は小売価格の数%でしかないから麦芽であろうが大豆であろうがコストは変らない。
 日本人が大手を振って本当のビールだけが飲める日が来ることを期待したい。(伴 武澄)