14日は群馬県大泉町にある日系ブラジル人学校「GenteMiuda」(ジェンチミューダ)の卒業式に招かれて出席した。財団法人国際平和協会が毎年秋に「東京遠足」をプレゼントしているご縁だ。全校170人余の同校の卒業生は二十数人。幼稚園から中学まで年齢層はさまざまだが、日本と違って親子がフォーマルに着飾って晴れやかな式典だった。
 一方で、悲しい話もたくさん聞いた。大泉町は三洋電機と富士重工の工場があり、その下請け企業群も多く、早くから日系ブラジル人雇用に熱心だった地であるが、100人単位での解雇情報が日系人社会を揺さぶっている。「GenteMiuda」の場合、来年の始業式に来ないことが決まっている児童・生徒が40人にも及ぶという。みんなブラジルに帰国する。
 日系ブラジル人雇用は法律の整備もあり、90年代初頭から急増した。日本に先祖があることが分かれば誰でも日本で働くことができたが、最近では「二世ならいいが、三世はダメ」というように就労ビザの発給も厳しさを増しているから、いったん帰国すると二度と日本で働けない人もいる。そういう事情を知ってか知らずか、日本で暮らしていけなくなったブラジル人の帰国ラッシュが始まっているのだ。
 華やかな式典の片隅でGenteMiudaの先生の一人が寂しそうにつぶやいた。
「ここに出席している子どもたちはいい方なのです。衣装代や式典の負担金を支払えない子どももいるのですよ」
「浜松では日系ブラジル人のホームレスが現れて、キリスト教関係者が炊き出しをしているというニュースを知っていますか。私が住んでいる伊勢崎市にもいるんです」
 楽天的なブラジル人たちはあまり貯金をしない。車を買って住宅を購入した人もたくさんいる。このまま日本で定住を決意した人たちも少なくない。しかし、就労の実体は「派遣」のまま。これまでは派遣であっても一生懸命働けば、普通の日本人並みの生活を楽しむことができたが、アメリカ発の経済危機が急速に日本経済に襲いかかっていて、真っ先に仕事を失うことになっているのだ。
 解雇されて、ブラジルへ帰国するチケットを買える人ばかりでない。解雇されて家を失い、帰国できない人たちが駅前での生活を余儀なくされている。親子連れのホームレスが出現したという情報もある。
 一番悲しかったのはある小学生の話である。家庭での会話から、親が金に困っていることを知って、放課後に自動販売機をまわり、忘れた釣り銭を集めていた。5000円ほど貯まったところを父親に知られて、生活費のために親に貸しているのだそうだ。(伴 武澄)

 日系ブラジル人大量解雇 一時帰国は片道チケットで (朝日 08.11.18)
 外国人ホームレス増加の兆し(2008年11月22日 朝日新聞)